「——っかりしろ! おい、桔柳! 早くしっかりしろ!」
声が。目の前のやつは、俺の友人の蓼楮だった。それを認識すると、一気に世界が現実のようにハッキリと分かった。いや、現実だ。認めたくないほどの。俺たちの乗っていたヘリも撃墜された。高度を下げたのが幸いして、死ぬほどの高さじゃ無かったようだが……。蓼楮の頭、ヘルメットの下から頬に向けて血が流れている。
「お前。血が——」
「それどころじゃない! 前を見を! あとお前の銃! ほら早く俺たちも加勢するぞ!」
前? 蓼楮が指差す先を見る。それと同時に出された、アサルトライフルを持ちながら。腕に重さを感じる。視線の先に班長と、他に3人。佐藤と、八重島、倖田。班員だ。瓦礫に隠れながら、銃撃している。その先には、俺たちを撃ち落とした竜巻が。ぐるぐると回る岩のような瓦礫が、全てを破壊している。その中心に——ミュータント。あまりにも幼い少女。白い服。まだ30mはあるが、顔に手を当てて、まるで泣いているように見える。
「くそ、近いな。4人? 他のやつは? 他の班は?」
「墜落した時に死んだ! 他の班は急行してるが間に合うかわからねぇ!」
俺の体をぐるりと見回す。べっとりと血が付いている。振り返ると、潰れたヘリの下に人の手が。血の池に沈んでいる。筋肉隆々の腕だった。館野。軍から来たベテランだった。向こうにも、瓦礫の山の上でうつ伏せになって動かなくなった別の。あれは染田。頭の良い大学入学をいつも自慢してた嫌なヤツ——いや、今は生きてる奴を助けなければ。走ろうとした時、右足に激痛が。足が嫌な方向に捻れていた。地面に崩れる。蓼楮が俺を引っ張り上げた。だが蓼楮の食いしばった険しい表情と流れる汗は、そいつもどこか身体がダメらしい——見れば、背中がベットリと赤い——ことを示していた。
「……すまん」
「っ、貸しだからな! 帰ったら奢れよ」
蓼楮が笑った。無理をしている。
「桔柳! 蓼楮! 生きてたか! 悪いが休む暇がない、仕事だ! こっちに来てくれ!」
班長がこちらに気付いたようで、大声で加勢を支持した。事実、あのミュータントは一歩ずつゆっくりと、だが確実に近づいてきている。こちらの銃撃は全てあの破滅の竜巻に遮られて、傷を付けることすら叶わない。そういえば、グレネードはどこに——振り返る。ああ、クソ。あの瓦礫の下に少しだけ見えてるケースの中だ。取り出すには重機を持ってこないといけないだろう。そんな時間は無い。
「ラジャー! 今行きます!」
蓼楮が返答する。しかし、その言葉に反して歩みは遅い。ぼたぼたと血が落ちる。必死で折れていない足を前に。この血だらけの二人三脚を、急いでゴールに向かわせなければ。絶えず銃撃と、身の毛もよだつようなアスファルトが剥がれる音の合間に、班長たちの指示と応答が。
「撃て! 撃ち続けろ!」
「ダメです! あの異能力の壁が……サイコキネシスの竜巻が、弾丸すら巻き込んでます!」
「……班長、後退を! 一旦引かなければ、我々もここで死にます!」
ああ、急いで俺たちも向かわなければ。火力が足りない。足止めが出来ていない。だが、二人とも立ってるのもやっとだった。蓼楮も、何も言わない。前からは悲鳴じみた指示と応答が聞こえる。どんどん敵が近づいて来ている。廃墟になったビルが崩れる。瓦礫が。その中にあっただろう無数の何かが散る。だんだん、音が遠くなる。現実味が消えて、ふわふわとした気持ちになる。
「……」
「……班長!」
「ダメだ! 俺たちがここで食い止めねば、避難が完了していない地区まであのバケモノが進んでしまう!」
「他の班はまだですか!? A班とB班は!!? うちらじゃ火力が足りない!!」
急げ急げいそげ。たすけなければ。ああ、でも景色が。見えてるものが二重になった。ぐらぐらと揺れる。なんだろう。これは地面か壁かわからない。一面灰色。小さな赤い水滴。もう、前も良く見えな——
「しっかりしろ! 俺たちならやれる!」
「……あ、ああ。そうだな。すまん」
大きな声で戦友が叫んだ。焦点が、視界がクリアになる。気絶しそうだった? 心の中で自分の弱さに悪態を吐く。だが、ここまで進めば十分だ。自分を褒め、戦友に感謝した。ここからなら俺たちの班の加勢が出来る。蓼楮に声を掛けた。頷きが返ってきた。俺は戦友の肩から離れ、廃墟になった何かの壁際をずり落ちるように道端の瓦礫の影に伏せた。アサルトライフルと、顔と腕だけをその上から出す。蓼楮も、膝立ちで銃を構えた。だが、その時だった。
「桔柳、蓼楮! 早く加勢を——」
班長の指示。それに答えようと、ミュータント——それの周りを護るように旋回する異能の竜巻を捉えた時。見えた。その渦から飛び出す大きな岩の塊が。軽トラック並みに大きな塊。
「ミュータント、来ます!」
「退避!退——」
それが、何個も、何個も何個も。次々と、隕石でも落ちたような重い衝突音と、立っていられなくなるような振動が。班長たちのいたところに。何回も。巨大な岩が。何個も。積み上がっていく。土埃が舞い、視界が悪くなる。
「班長!? 班長!! 佐藤! 八重島! 倖田!! 誰でも良い、生きてたら返事を! 返事をしてくれ!!」
「……クソッタレ! クソッタレが!」
蓼楮が叫ぶ。だが、返事は無い。どう見ても、あの岩の攻撃を誰も生きては——それに気付く前に、気付いてしまったからこそ、俺は叫んで銃の引き金を引いていた。敵うわけがないのは知っている。だが、それでも。蓼楮もそれに続いた。ミュータントはこちらの存在を知覚していなかったのか、僅かに竜巻きの進行速度が止まった。だが、すぐに進路を変えて近寄る。班長たちを殺した、死の渦が近付く。俺たちも、その餌食にしようと。望むところだ、こっちから殺してやる。どんどん、竜巻が。ミュータントが近寄る。断頭台がその刃を持ち上げたのかのように、大きな岩がゆっくりと渦の外側に。こちらの銃撃はまるで効いている気配が無い。全部、その竜巻の一部になっていく。ああ、クソッタレ。これは死ぬ。
「クソッ、D班壊滅! 奇襲は失敗だ!」
「作戦なんて意味ない、俺たちも撃て!」
死を覚悟した時、瓦礫だらけの横路地から銃火が。廃墟の中からも銃声が。
「A班,B班交戦開始!」
「この物量だ、一気に畳み掛けろ!」
竜巻が、鉛の光の雨で四方から滅多打ちにされている。周りを見ると、奇襲するはずだった部隊が、助けに来たのだ。
「……間に合った、のか?」
蓼楮がこちらを見た。こいつもさっきまで死を覚悟していたようで、この状況に困惑しているようだった。俺だってわからない。小さく肩を竦め、前を、つまりミュータントを注視するようにハンドサインを返した。なにはともあれ助かりはしたが、あのミュータントを。怪物を殺さねば。
「C班はどこだ?」
「怯むな!あのサイコキネシスの壁にも、隙間がある!」
鉄壁に見えたサイコキネシスの渦も、同時に何十と迫り来る攻撃全てを防ぐことは出来ない。鈍く光る弾丸のいくつかが竜巻を突破した。飛び回る瓦礫の間から、赤い飛沫が見えた。俺も銃火に加わる。横で見えないが、きっと蓼楮も。
「有効射! 有効射!」
「ターゲットに命中!」
それを皮切りに、次々と銃弾が竜巻きを突き抜ける。渦の出力が下がっているのか。大きな瓦礫から、地面に落ちる。回転が遅くなる。鉛玉がミュータントを何度も突き抜けた。白い服が赤く染まっていく。渦の回転は遅く、もう目に見えるほどにゆっくりで、飛び回るものも小石みたいなものになっていた。ブリーフィング通りの、6歳の少女。いや、あれは化け物なんだ。血を流している。竜巻が、サイコキネシスが完全に止まった。パラパラと、全てが落ちていく。
「隊長、射撃はもう——」
隊員の一人が、小隊本部隊長に問いかけた。どう見ても、これは終わりだ。銃撃を止めて様子を見ている。慎重深い何人かはリロードを行なっていた。
「ダメだ、息の根を止めるまでは油断するな。確実に死んだと分かるまでは——」
小隊の隊長は銃口を死にかけのミュータントから離すつもりはないようだ。だが、件のミュータント——少女は、ふらついて、血まみれで……倒れ——
かけ、一歩踏みとどまった。
仕留めていない。
少女が——否、ミュータントが——こちらを——隊長たちの方を——
「う、撃——」
その前に、ミュータントが叫んだ。吹き飛ばされる。押しつぶされそうになる。身体が宙に舞う。辺りすべてが。見えない大きな手で引き裂かれたように。グチャグチャに。破片が、何かだったものが。飛び散っていた。俺にも強い力が。捻れたように。無茶苦茶な力が襲いかかる。壁にぶつかる。痛みと共に地面に落ちる。一瞬で全てが真っ暗に。
音は聞こえなくなっていた。
No.1 (2/3)
思い出したか?
——ああ。思い出した。
ミュータントは危険だ。
そうだ。危険だ。何人も死んだ。何千ものミュータントは何億と殺した。
あのたった一体の幼いミュータントに、お前たちの小隊は壊滅させられたのだ。
——!! ああ、その通りだ! あのバケモノが殺した!
殺しやがった!!!!
バケモノは殺さなければならない?
当然だ。あんな悲劇……あんな惨劇を二度と繰り返さない! 俺は……
お前にはその力が与えられた。その力は殺すために使え。殺戮しろ。愉しめ。
…………俺は……
……。ここには——
……?
ここにも、ミュータントがまだいる。この世界を見ろ、ほら。壊れている。
……!! ここ……にも……?
そうだ。よく見ろ。ほら、そこに。向こうに。こちらに。バケモノがいる。殺せ。殺せ!ミュータントを殺せ!
ミュー……タントが……? 居るのか?
あのバケモノが?
殺せ。
殺せ。殺せ。お前の使命だ。
守るんだろう? 市民を。その力を使え。さあ殺せ。殺せ。急げ。急げ。急げ!!さあ早く。殺せ。急げ急げ急げ。殺せ。市民が死んでしまうぞ。殺せ。お前と共に守るはずだった仲間たちが。殺せ。お前の親友が死ぬぞ。さあ
頭が割れるように痛い。殺せ殺せと声がする。敵が……敵がいる。それはミュータント? ああ、思い出した。あの悲劇。どんどん死んでいく。ころさなければ。いそげいそげいそげ。まもらないと。またしんでしまう。こんどはしっぱいしない。まちがえない。そのためだろ? この力は? ころすためのちから。……なにかわすれている?
殺せ。
ENo.1211
桔柳 靱



——流れるべきではなかった血、それ故に誉れは消え失せる——
「俺は……俺が戦う理由はそんな綺麗なモノじゃない」
【名前】桔柳 靱(キリュウ ジン)
【種族】人間
【性別】男
【職業】フリーター
【年齢】19歳(12/3生まれ)
【身長/体形】170cm台、比較的痩せ型
【性格】比較的寡黙、マイペース。世間に疎い抜けてる一面も。
【趣味】散歩、知らない場所巡り。
【好き】本、味の濃いもの、散歩
【嫌い】■■■■■■?、危険な存在
【恐怖】幼女
※桔柳のカッコイイ立ち絵アイコンは常田様(@tokitassk)よりコミッションで描いて頂いたものです!
※また、十con様よりアイコンをお借りしています(26~28)
ロールプレイス!
[http://lisge.com/ib/talk.php?p=2785]
説明:仏頂面であることや、後述の異能のせいで近寄り難い印象を与えるものの、普段は落ち着いた青年として振る舞う。最近この島に来たばかり。なんとか住居と職(バイト)を見つけた。ちなみに幼女恐怖症(ロリフォビア)。5~6歳くらいがある意味ストライクゾーンで、近づかれれば恐怖反応で固まり、触られるだけで泡を吹いて昏倒する。
「自分は市民を守る義務がある」という一見ヒロイックな思考の持ち主だが、その本質には「守るためには脅威を排除しなければならない」という兵士、あるいは駆除業者に似た冷酷さを含んでいる。
異能《シウィスパケム『名誉無き流血』》
己の血液を刃に変性する異能。主に掌から刀を生成することが多いが、身体中のどこからでも、刃物ならどのようなものでも生成可能。血液由来な為なのか、人間離れした再生能力と身体能力を有する。本職の再生能力者より回復速度はずっと遅いものの、とりあえず心臓と頭が同時に潰されない限り必ず再生する。この再生能力は、造血作用を特に強化している。鍛えてるため素の能力自体が高い上で、身体能力が強化されており、特に瞬発力に至っては獣並み。痛みで気絶することもない。
ちなみに痛覚とかは別に軽減されず、また血液を変性するだけなので体表からいい感じに血が流れてくれるわけでは無い。つまり、この強力な異能にしてはとても、とても「ささやか」なデメリットなのだが能力発動時には文字通り、身体の内側から突き刺される堪え難い激痛が走る。
ナチュラル銃刀法違反能力。
——その血には、彼自身も知らない特性が存在する——
[The Untold Story]
<<桔柳の正体>>
[CONFIDENTIAL]
[PERMISSION]
桔柳は、イバラシティ世界の住民ではない/アンジニティ世界でも無い。
彼はイバラシティと同じように異能力者が存在する、しかし明確に脅威たる世界だったところから来た、いわゆる異世界転生者(転送者)だ。その世界の異能力者は、能力や本人の資質、性格に関わらず"必ず"『アウトバースト』と呼ばれる暴走現象が起こる。それが起こると異能力の出力が極端に上昇、なおかつ当人にも制御不能に陥り、最低でも大量殺戮あるいはそれと同程度の社会的損失を引き起こす。その為異能力者は『ミュータント』と呼称され、”人間ではない、脅威的な害獣”として殺処分される。
その実行力として、桔柳は徴兵された大勢の兵士の一人だ。初任務にてアウトバーストを起こしたサイコキネシス型幼女ミュータントを排除する任務に就く。結果として所属部隊は全滅。桔柳自身も下半身が吹き飛ぶ致命傷を負うも、相打ちとなる形でミュータントを撃ち殺す。その後、出血死——したはずだった。
何者かによる意図なのか、死を覚悟していた彼はこのイバラシティで目覚めたのだ。本来は無かった筈の彼の異能を有して。
それ故に、いざ相手をミュータント(”きょうあくできけんな”いのうしゃ)だと判断すれば、殺害も厭わない。
ちなみにその時所持していた武装(拳銃、アサルトライフル等)を今も密かに所持している。銃器の扱いはそこそこ。確信犯的銃刀法違反。
【嫌い】ミュータント?、危険な存在
この情報は明らかにしてはいないが、信頼を得れば彼の口から聞くことは可能だ。また異能などで知り得ても良い。その場合、彼は驚きはするだろうが敵対するわけではない。
<<ハザマ世界>>
[CONFIDENTIAL]
[PERMISSION]
ハザマ世界において、彼は狂気に陥っている。「人々を守らねば。ここには危険なミュータントが大勢居る」と。その人々は誰か、目の前の存在が本当にミュータントなのか彼にはわからない。わからないなら危険だ。危険ならミュータントに違いない!目の前の敵はミュータントだ!排除しなければ!!最早言葉は通じない。特にアンジニティの人間は確実にミュータントだと判断するだろう。イバラシティの人間も危険かもしれない。痛覚は残っているはずだが、異能を使うこと、それで身体が貫かれること、身体を剣で貫けば痛みを感じること、を結び付けられるだけの理性は残っておらず、異能を使うことに一切の躊躇いがない。そんなことより、早くミュータントを殺さなければ!市民に危険が迫っている!!目の前の市民はミュータントだ!!!さあ殺せ。
<<その血の本質>>
[CONFIDENTIAL]
[FORBIDDEN]
#真相が明らかになった後に
<<どうでもいい話>>
~2歳:流石に幼すぎて気にならない
3,4歳:恐怖感が出てくる
5,6歳:恐怖、ムリ
7~10歳:怖い、失神しないが逃げる
11,12歳:まだ怖い、自分から接近しない
13,14歳:ちょっと怖い、耐えられはする
15,16歳:僅かに苦手意識
17歳~:流石に気にならない
※ちなみに男児でも4~8歳くらいの子供は苦手
※あくまでPCがビビり散らすだけで、PL的にはロリショタキャラが絡んでくることは全然オッケーです。むしろビビり散らしたれ。
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※貸し借りOKコミュ加入! ただし立ち絵アイコンの権利は私ではなく描いた方々にございますので、その点だけご注意を。
※ロールプレイの絡み等ご自由にどうぞ、誰でも歓迎スタイルです。初心者だろうがベテランだろうが突撃して来てもいいですし、こちらのロールを無視しても良いです。置きレス傾向です、ごめんなさい。
※中の人は崩壊傾向があり、気をつけてはいますがぶっ壊れロールをすることがあり得ます。もしアレでしたらアレしてください。
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20 / 30
50 PS
チナミ区
E-13