
日記を書く趣味なんて無いけれど、「本を出してみたら」なんて言われちゃったし。書き方を思い出す為にも、書いてみようか。とりあえず、前書きだけ書いておこう。
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どうやら、死後の世界は本当に存在したらしい。
念仏が反響する小さな部屋で、
首に縄をかけられ、
ふと重力を感じ────そこから先の記憶がない。
やはり。
私は、確かに死んだのだ。
侵略だなんだと言われても、生憎私は征服欲というものを持っていない。そもそも、誰かに従うつもりもなかった。それこそ、私自身がアンジニティという世界に使役されているようなものではないか。
だが荊街という土地、いや世界を知って考えを変えた。
異能という幻想的な力はあるが、社会構造は元いた世界とそう変わらない。不運な子供は親の愛を得られず、夢を抱くことすら叶わない。生まれの差がそのまま貧富の差になってしまう、不完全な世界だ。
侵略という括りに含まれているのは、不本意だが仕方がないのだろう。アンジニティの住民達は世界に害を成すのだから。せめて、私だけは違うとあちら側の住民には伝えねばなるまい。ひょっとすると、同じ考えを持つアンジニティ側の者が見つかるかもしれない。
しかし。
侵略の結果、住民が丸ごと入れ替わるというのは受け入れ難く思う。あちらにだって善人はいるし、こちらにだっている。また同様に悪人があちらにいるが、こちらにも当然存在する。
優しい世界を作る為には、まず始めに取捨選択が必要だ。理解を示さない悪人を捨てなければ、どんな手段を使っても素晴らしい世界など作りようがないのだ。私はそれを、死に至る刑で学んだ。
悪意は伝染する。
そして、善意は酷く脆い。悪意に晒された善意は、瞬く間に死んでしまう。
立ち止まっている時間などありはしない。躊躇いは未来への裏切りを意味する。
既に在る幸福を奪うことは私の正義に反する。それでも、今掴める道は侵略というたったひとつのやり方のみ。
ならばどんな状況であれど、私が成すべきことはただひとつだ。例え世界に拒絶されたとしても、変えるつもりはない。
全ての人々を、同じ出発点に立たせる為に。
未来で苦しむ数多の人々の為に。
さあ、世界を解放しよう。
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こんな感じで良いのかなあ。そういや、生前は色々頼まれて書いてたっけ。日記は書いたことが無かったけど。
うーん、もっと自伝を読んでおくべきだった。