「姉さん、どうして此処に――」
此ノ花和紙店の扉を開いて、そう言葉を発した。
彼の視界がぐるっと暗転したのは、その時だった。。。
…………
そして突如にして移り変わる世界。
気がつけば彼の前には、荒れ果てたイバラシティの光景が広がっていた――
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竜次楼 「――――」 |
ああ……
嗚呼――そういうことか。
これが意味していることを、彼は直ぐに理解した。
白南という謎の男からの警告。
ワールドスワップ、侵略者、アンジニティ……ハザマでの陣営争い――
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竜次楼 「やれやれ……ようやくお出ましというわけか」 |
彼はそう言うと、首を捻り。ゴキリと音を鳴らしてみせる。
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竜次楼 「何時までも始まらないから軽く忘れかけていたぞ――」 |
ゴキリ、ゴキリ、と拳を鳴らす。
闘いの時が、ようやく始まった――
不安や恐怖は、不思議な程までに微塵も感じていなかった。
むしろ、これで思う存分に闘いが出来る――
己の中に流れる血が、ざわざわと騒ぐのを彼は実感していた。
白崎家。通称"竜の一族"は――このイバラシティの平穏を守る為、
先祖代々悪の芽を絶対的な力を以てして踏み潰してきた。
そして、祖父から俺の代にその役目が移り変わったことはまだ記憶に新しい。
俺は――ここでもその役割を果たすのみだ。
しかしそれは、悪の手から街を守る為だとか。ましてや正義の為などではない。
俺の中にあるもの、それは……
"力を持った悪を、それを更に上回る力によって叩き潰す"
ただ、それだけである。
それこそが"竜の一族"の全てであり、存在意義――
そういえば……
"やがて最初の試練が訪れる。見事打ち破り、力を証明してみせよ"
最後の修行となったあの日――
祖父が突然改まってそう告げてきたことを、彼はここに来て急に思いだした。
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竜次楼 「(ジジィめ。。。これの事を言っていたのか?)」 |
――だとすればむしろ御誂え向きだとさえ、彼は思った。
そして、次に彼は白南からの言葉を思い出し――
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竜次楼 「(そういえば、アンジニティの勢力とやらは、 既にイバラシティの日常の中に介入しているんだったか? だとすれば――)」 |
そこで、彼はこの開始地点に居る他の者たちの姿を確認する。
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竜次楼 「黒渓は、居ないか。。。」 |
まさか住民全員が強制参加だったらそもそも会場が大混乱だろうから、
始まったばかりの今周りを見渡して居ないということはおそらく居ないのだろう。
――少なくともこのイバラシティ陣営側には。
そして……
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竜次楼 「姉さんや母さんも……居ないんだな。。。?」 |
次の彼は身内のことを思案した。
二人は、異能を持っていないからここに呼ばれることは無いはずだ。と考える。
そしてその方が、二人にとっても安全だし。むしろ都合がいいだろう――
それでも、黒渓同様一つだけ悪い可能性が残されているが――
その時どうするか。
……初めから彼の考えは決まっていた。それを今一度再確認し、拳を握りなおす。
そうはならないことを、一応祈りながら――
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竜次楼 「あとは、あのジジィか……」 |
もし、彼奴こそが此処での敵だった場合――その時は、どうなる?
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竜次楼 「……クク、ククク――」 |
そこまで考えた彼の口から、小さく笑いがこぼれ出た。
――もしそうだったなら――むしろ丁度いいではないか。
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竜次楼 「その時こそは、俺があの怪物を直接抹消できるというわけだ!!」 |
……なんの問題もない、何の事はない。
成すべきこと、成したいこと。全ては最初から決まっていてブレることもない。
それが、俺の
"血"の意志なのだから――
気持ちの昂ぶりを感じながら、彼は荒野に立ち眼前に迫る怪物を見据える。
とにもかくにも先ずは、コイツだ。
"眼"が教えてくれる――大したことはない。
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竜次楼 「――やるぞ」 |
彼は一人、そう呟き。そして怪物に向けて一歩前に――
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竜次楼 「(……ん?)」 |
しかし……そこで彼はようやく気が付くのであった。
そこにあったのは一つの違和感――
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竜次楼 「…………なっ……!」 |
ここで初めてちゃんと自身の姿を確認した彼は、思わず愕然となってしまった――
そう。彼は――
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竜次楼 「―――――――!!?」 |
そう、彼はパジャマ姿でハザマに来てしまったのだ!!
そのパジャマは、デフォルメされた恐竜達が描かれた生地と星の柄からなる、
男子が人前で着るにはいささか可愛らしいものであった。
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竜次楼 「……!!」 |
彼はそこで思い出した。
そう、あの日は確か前回姉さんに直接会った日だった。
そして姉さんは、その時俺にパジャマを買ってくれた。
"きっと似合うから、着てみてほしい"と。そういって。。。
そしてその夜俺は貰ったパジャマを来て眠りについたのだ――
白南からの連絡が舞い込んで来たのは――その夜だった!
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竜次楼 「いやいや……嘘だろ……?」 |
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竜次楼 「ありえない――聞いていないぞ!!」 |
しかし、何度眼で確認しても。その手に触れてみても
今ここで自分が身に纏っているものは間違いなく姉がくれたパジャマであった。
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竜次楼 「準備の時間とかそういうの無いわけ!?」 |
そうしているうちに、怪物のほうから。こちらに近づいてくる――
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竜次楼 「(こ、これで戦わなければいけないのか――ほ、本当にか??)」 |
既に至近距離――闘いは、もはや避けられない。
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竜次楼 「――――」 |
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竜次楼 「(最悪だ。。。!)」 |