――――かつて、どこかであった出来事。
シラハ
エルンスフェルゼン型魔導聖鎧、個体名シラハ。
理由あってアンジニティに加勢した漂着物。
損傷しているがまあまあ動いていた。
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シラハ 「………」 |
…状況終了。
稼動限界と判断。
本機は自己処分を実行―――…
………――――――
侵略が中止となり。
アンジニティから一体の異形の鎧が消え去り。
イバラシティから数多の異物が消え去り。
ひとりの少女も同じように消え去った。
それは何かを残したかもしれないし、何も残さなかったかもしれない。
――――かつて、あったかもしれない出来事。
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シラハ 「………」 |
『何かあったら模擬人格に判断を仰ぐように』。
命令を遵守。
模擬人格の記憶情報より行動を再制定…
警告:出力不足。最小状態でごく短時間のみ稼働可
『どのような事情があろうと、無関係な平穏を踏み躙っていい理由にはならない』
『防衛側勢力に加勢せよ』
行動方針決定。
本機は防衛側勢力イバラシティに加勢。
略称・白羽ネインの記録を参照………
参照完了。護衛目標を設定。
本領域に目標確認時、暫定優先度順に護衛。
……目標確認。接触準備。
注意、目標にとって現在の本機は視覚的に極めて危険であると推察。
全力で敵意が無いこと、味方であることを示さなければならない。
発声機関が損傷しているため身振り手振りに限られる。
効果的と推測される行動…
1、跪く
2、土下座
3、お辞儀
4以下、逐次思考
…
――――おそらく、こうはならなかった出来事。
…
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シラハ 「………」 |
『以上、状況報告終了』
シラハ・ネイン
シラハの主、騎士ネインテンティアの複製人格。
イバラシティの存在、白羽ネインのベースとなった。
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シラハ・ネイン 「………」 |
『…こんな世界も、あるんですね』
『…たとえ修復支援を受けた恩があろうと。
どのような事情があろうと…』
『そこにある無関係な平穏を踏み躙っていい理由にはなりません!』
彼女の元は。
そうやって踏み躙られ、それを少しでも減らすための道を歩んだ者なのだから。
『防衛側勢力、イバラシティに味方します』
そして、あの地の平穏を知っているから。
…どう転んでも、私達…そしてあちらに存在してしまった、白羽ネインにも…
幸せな結末というものは存在しないでしょう。
それでも、選ぶ道はこれしかない。
白羽ネインとしては、己の生まれの不幸を悲しむしかありません。
――――こんな可能性ばかりが散らばっていた。
白羽ネインテンティア・エルンスフェルゼンという存在は、どうしたって元から詰んでいた。
異界の漂着物、その内部にある模倣人格から成る少女。
その本体はヒトの心を持たぬ異形の鎧。
その身を犠牲に主人を助け消滅するはずだった、柔軟性に欠ける思考を持った兵器。
消滅を免れてしまった、役目を終えたはずのモノ―――…
…―――だった。
在るはずが無かったこの可能性において、それは過去形で。
この白羽ネインテンティア・エルンスフェルゼンは現地人である。
その行く末はわからない。
まだ、きっと何者にも。