「……うそ だよね?ハクカクさん、フジウルさん……お二人が侵略者だったなんて」
嘘じゃないんだよね。僕は嘘をつくのが下手だし。
(それまるで)(生殺与奪を掌握しているかのような)(穏やかな傲慢さであった)
でも、黙って大人しくすることはできるんだ。
(イクコの顔のラインに添えるように、そっと鉄爪を合わせ、這わせた)
(ワイングラスを持つような…だがこれは、フジウルに限っては、グラスよりも…)
「イクコを驚かせちゃったようだね」
「そうねえ」
「僕のこと、人間だと思ってくれていたのかな?」
「さあ? でも少なくとも、目の前にいた人が侵略者だなんて思いもしなかったでしょうね」
「『視る』事に長けた彼女がか、いけないなあ…もっと身近に感じさせる必要があるよ」
「というと?」
「分館、本格的に建てようと思う。知識と情報だけでも共有化出来るようにね。
それに、此処でどんな書物や資料が得れるのかも興味があるんだ」
「おっ図書館館長らしいこと言うようになったわね」
「建設の目処がたったら、名刺使えるようにしたいな」
「はいはい、頼んどくわよ」
此処はハザマ。現実世界と異世界の狭間。
「フジさん、準備は良い?」
「ああ…」
人の通らなさそうな、適当な空き地に僕達はいた。
部下達が、僕の知らぬ間に色々手配していたらしい。
本当に、優秀なヒト達だよ。
「これが…僕の……」
硬度が非常に高い宝石、その塊、そのなかに僕の脳が、僕の『記憶』が詰まっているんだ…
特徴的な形状の宝石の塊を、両手で覆うように大事に抱える僕を見詰めるのは
決まっている、ハクだ。
「そうよ、それを『あの時』みたいに解除を果たせば、元の形を取り戻すでしょうよ。
記憶が戻るかどうかは貴方の体次第だけどね?」
ハクは、この日のためにも『視界の共有化』をしてくれた。
僕の視界だけでなく、僕が脳内に過ったことまで見えてしまう…『意識の共有化』。
そういう眼球『鉛球』に抵抗なくすり替えてくれたんだ。
僕がこれから、何を目の当たりにしたのかハクも判る仕様だ。
「…大丈夫なのかい?」
「そりゃこっちのセリフよ」
「記憶回帰に苦痛が伴ったとしても、僕だけで済む話であった。
それを人間である君がもつかどうか…」
「今更何言ってんのよ。
主や親にとって、何に苦しんでいるかどうすればいいか
はっきり判ること知れることってありがたいものよ」
「………」
「獣は喋れない、けど貴方は喋れる。
獣は未知のものに怖れ歯向かう、貴方は未知のものに怖れ戦く。
獣は不利と判れば時に逃げる、貴方は…そう、当時どういう状況で逃げたかってね。
いい?
私の頭がパンクしたって構わないわ。貴方の記憶、余すことなく伝えてちょうだい。
そして貴方に代わって私が皆に伝えるわ、人間目線でね」
僕が恐がるのを判った上で、記憶を『視る』…
覚悟を決めて、異能による『金の針』を具現化…それを『高硬度宝石の塊』に刺した。
『金の針』は対象を一瞬金属化すると同時に無機物化することにより
有機物対象の異能を解除させる代物だ。
改良次第で用途も増えそうではあるが、それはまた別の日に……
そうこうしているうちに『高硬度宝石の塊』は徐々に姿を変え
「あ……」
「フジさん」
フラッシュバックなんてものじゃない。
濁流の如く雪崩れ込む情報·知識·記憶
「あつい……」
「フジさんってば」
冷たいよりは温かい方が好きではあったが
何処か焦げ落ちるのではないかと感じさせる不安な程の『熱さ』
「いたい……」
「フジさん、しっかり」
あの時、腹を裂いて掻き回した時のような
それが頭の中に痛みとして押し寄せて…
途中、嘔吐した。
熱か強酸か定かでないが、僕の胃液で地面がいくらか溶けた。
背中を擦られつつ、口を拭いつつ…
「そうだ…□□□……」
「え?今なんて?」
常人には聞き取れなかったようだ。特異の発音の、数々の兄弟の名前。
皆、頭の悪い単細胞のような僕を可愛がってくれた。
そして、あいつに生皮を剥がされ、喰われ、見せしめのように……
「ああ皆もう…でも……」
そうだ、馬鹿な僕にも兄弟達は『感情』というものを与えてくれたんだ。
失う『哀しみ』牙剥け示す『怒り』与えられる『喜び』『楽しみ』
そして
「兄さん、それが…」
「………さしづめ、『ロンズデーライトスタチュー』かしらね?」
あの時、僕に知恵を与える兄を快く思わなかったのか
奴は僕の目の前で兄を襲いはじめた。
その時『恐怖』を覚えた僕は、逃げるという選択肢を無意識にとった。
そして背後が光った。
其は奴を狙ったふりをして、端から僕に当てるつもりの軌道であった。
「フジさん、貴方逃げながら守ってもらったんだわ!」
「……君も、そう思う…?」
二人して、血の涙を流していた。
僕等の見解はこうだ。
兄さんは、逃げる僕がすぐに追いつかれる可能性すら見出だして
しかし奴の追手をどう撒くか考えた結果
『無機物化による保護』を思案そして決行したのだろう。
解除方法は当時では不明。だから奴でも手出しは出来なかった。
だけども高硬度とはいえ宝石は宝石なので、いくらか肉体が欠けた。
其がよりによって、記憶を司る器官であった。
「レピドライト…の方は脆かったから、寧ろ破壊目的だったけど
ロンズデーライトくらい硬いと逆に守りになるもんね。
モノは使いようだわ。
どちらも生物の死に近いんだろうけど…
最終的にどう解釈すべきかはフジさん、貴方次第だからね?」
「僕は……
兄さんに感謝しかないよ。
何を恨むことがあるんだ……」
血を拭った。異形の証である青い血を
「これでもう、用済みだよ」
「それじゃあ」
「奴を本格的に追い払って彼処を縄張りにする」