これは某日、フジウルが就寝中の時間帯。
フジウルもこの短期間で、サクサクを追わない日でも多忙になってきたのだ。
バイト先で神経を使ったり、突然の密室空間に閉じ込められる事うち2回…
片や上品に、片や猛々しく…それもこれもとある組織に関わったばかりの弊害である。
判りやすくいえばとばっちり。
サクサク打倒を果たしさえすれば、一掃出来るのに…
そういうわけで神格とはいえ、心労も溜まるのだ。だから、よく眠れている。
布団から脚がはみ出そうともだ。
いつの間にか置かれていた鞄。
それは馴染みの鞄であり、その厚みから経費が詰まっているものと期待して開けたが…
「……? これ、ネ…」
「言っておくがネクタイトではないぞ」
「なんだあ」
あからさまに残念な様子を露にするハクカクであった。
「仮にそうだとしたらお前じゃなくてフジウル氏に贈っているさ」
「あんだって、二人して私のことなんだと思ってんのさ」
「守銭奴」
「ぐっ、あまり否定できないわ……」
自覚だけはある。自覚だけは。
そんなハクカクに憎まれ口を叩くのは、端末の向こう側にいる無愛想な上司だ。
「お前に尋ねられる前に、先に此方の問い掛けに答えてもらおう。
最近、フジウル氏の身について判ったこと、気になることはあったか?」
「え~、気になること?」
頭をぼりぼり掻いて何かを思い出そうと…思い出した。
「そうそう、フジさんって頭に怪我とかしたことある?」
「…何故そう思った?」
「いやね、先日はねっ毛凄いのが気になったからブラッシングしたの。
そしたら後頭部の辺り? なんか妙に柔らかい所が一部あったのよ」
「ほう、後頭部がな…」
如何にも『確信を得れた』かのような絶妙な声色だ。
「ではもう一つ尋ねよう。その石、なんの宝石か判るか?」
「判らんっ」
即答已む無し。ハクカクは動物·生物等の知識と興味が非常に疎い。
宝石は換金アイテムもしくは知り合いの名付けに使われている程度にしか意識がない。
「『ロンズデーライト』だ」
「貴方の仲間?」
「違う」
即答已む無し…
「六方晶ダイヤモンド…と言えば硬そうなのが伝わるか?」
「ダイヤッ! そりゃ高いわね! じゃなくて硬いわね!」
「売るなよ…? 絶対にだ…」
「冗談よ売らないわよ、こんな得体の知れないの」
「得体は知れている」
「そうなの?」
「そのダイヤモンドより硬い宝石、中身は…
知識と情報を統合した結果、俺の読みが正しければ…
それは、
フジウル氏の脳の欠片だ」
「…………えっ?」
理解する以前に、宇宙との交信の如く反応に大分遅れた。
「おかしいだろう? 俺もそう思う。だが有り得てしまうのが彼等一族だ…」
「だって、えっ、そうだとしてなんで宝せ………
あっ、もしかして………」
「そのもしかしてだ、『異能で宝石化した肉体』だ」
「一部だけ残ることなんてあるの??」
「残ってしまったんだ、それが『其』なんだよ」
そう言われてみればこの宝石、有機体特有の規則的な形状に見えるような見えないような…
「……これ、どうしたら良いの?」
ハクカクは事を理解し始め、仕切り直し、改めて本題に取り掛かった。
「機が熟したら、フジウル氏に託せ。
それで全て判るだろう…氏の御令兄様も仰っていた」
「れいけい?」
「兄だよ兄…」
「あーはいはい。…お兄さんねえ。フジさんは凄い慕ってるみたいだけど」
「ああ、言い難い事実だとは思う。が、お前のが巧く伝えられる気がするんだ。
それにあの方からは『自分がやった』としか聞かされていないからな…」
「真実はフジさんの頭の中かあ」
「そうだな」
「にしてもさ、黙秘ってずるいわよね。
態度で嘘はついてないけど、肝心な事は教えてくれない」
「……そうだな」
片や鞄を閉じ、片や端末を閉じ……
ようとした瞬間である。
「そうだ、これ何処で手に入れたの?『トナカイ』は夜逃げしたはずよ?」
「だからネクタイトじゃないから関係ないだろ…其は『むすびや』で購入した。
張り込んだ初日に、あの方と入れ違いになった時に棚に現れた」
「なんですって…じゃああいつがコレ持ってたの?」
「そこそこの大きさの物だ、携帯していたとは考え難い。
が、あの方も真の姿がどういったものなのか定かでない。
我々の想像のつかないような巨体か、或いは領域に広く影響を与える未知の力や事象で
偶々あの方の周囲に貼り付き、溢れ落ちた物なのかもしれない…」
「なんなのよ、それ…」
「俺も同じ感想しか出んよ。…もういいな?」
無愛想な上司は返事を待たずに端末を閉じた。
「…君もずるいよねえ」