まどろみの中、過去の映像が蘇る――
「君には世界をめぐり、冒険者として各地の諸問題を解決する役割をお願いしたい」
帝都アバロン、宰相の執務室。書類積み上がる無骨な机を前に座る若き宰相は、ハティを前にそう言った。
「なるほど、宮仕えの身になれ、と」
来賓用ソファに腰掛け、出された茶を啜るハティ。最高級の茶葉なのだろうが、もとより茶の味の良し悪しなどわからない。
「最も単純ながら最も座りの良い手法だと思わないか。そうなれば君が国に二心を持っているなどと揶揄することなどできまい。先の功績を考慮するば十分な待遇も約束できる」
「せっかくだが――」
飲み終わったカップをソーサーに戻し、ハティ。
「わたしはもう前線に出るつもりはない。わざわざ役割を作ってもらったのに悪いが……」
「だが、それでは」
「無論、なにも差し出さずになどとは言わない。要は、わたしが身の丈に合わぬ旗頭などにならないと納得させられればいいのだろう」
眼の前のテーブルに、荷物袋から取り出した細長い物体を置く。スタークラウン『トーレンス』、ハティとともに戦い抜いた、いわば相棒にあたるものだ。
「それは……」
「これがなくてはわたしは魔術を行使できない。それだけでも納得させるに十分だろう。なにより勇者の名声はこれを持たねば有効に機能しない」
「……彼女はなんと言っている?」
「なんの問題もないそうだ。どこにいようと、自分にとってはどうでもいいと」
「そうか……」
彼はテーブルまで歩いてきて、それを検めた。独特の風味で鈍く光るそれを一瞥すると、本物に違いないと確認できたようだ。
「褒賞はどこか辺境の土地と要求した建物を立ててくれるだけでいい」
「わかった、話を通しておこう」
「感謝する」
再び机に戻り、彼は口を開いた。
「一つ、訂正をしておきたいのだが――」
「うん?」
「あの役は、君のために無理やりひねり出したものではない。実際に必要なのだ。この先、冒険者という存在は世にとって確実に必要になってくる。食い詰め者が命を捨てる場とすべきではない」
「……それは、失礼した」
「まあ、つまり……気が変わったならいつでも待っている。世の混乱のせいで、人員が少なすぎる……」
「そうか、考えておこう」
意識を取り戻すと、そこは元のままのイバラシティのホテルの部屋だった。
「ああ、寝てしまったのか」
「疲れていたのでしょうね。無理も無いわ」
「お前を手放したときのことを夢に見ていた」
「まだ気にしていたの? どうでもいいといったでしょう」
「いや、わかっている。わかっているのだが……」
むくりと体を起こし、ハティは天井を見上げた。