「わーくんはすごいねー」
携帯ゲーム機を返された持ち主はそう言って笑う。
画面には賑やかな演出と共に『STAGE CLEAR』の文字が浮かぶ。
別に難所を越えたわけでもなければ、ハイスコアのランキングを塗り替えたわけでもない。
ゲームジャンルが彼女に合わなかっただけで、特別自分が“すごい”わけではないのだ。
だのに、そんな一言で調子に乗るクソガキは――
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『こんなの簡単だし。 できないとこあったらまた貸してみ? 俺が代わりにやってやるよ!』 |
――ただただ、殴りたくなるようなクソガキでしかなかった。
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うさ子 「(――まやかしのわけ、ない)」 |
伸ばしながらも手に緊張が奔る――が、彼女はそんな俺の心中を察することなく早々にむんずと手を掴み取った。それはもうバーゲンセールで獲物を見つけた主婦の手腕が如く。
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うさ子 「早っ!?」 |
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莉稲 「うさ子ちゃん、っていうんだ。かわいい~。わたしね、汐見莉稲。 イバラシティのウシ区に住んでてね、あっうさ子ちゃんは守護像わかるかな? そこでアルバイトも――いつの間にか始めてたみたい。 なんだか不思議だねえ、知らない内に向こうではどんどんお仕事とか知り合いとか増えてて~」 |
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うさ子 「いやお姉さん待って、待って!? そりゃ私はお姉さんを助けに来たけどあまりに不用心すぎやしませんか!! 」 |
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莉稲 「……?」 |
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うさ子 「そんな「なんで?」みたいな顔しないで!!」 |
呑気に世間話を始める始末だ。あまりのマイペースっぷりに振り回されかけるがなんとか踏みとどまる。
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莉稲 「えへへ~、だってイバラシティの子が助けに来てくれたんでしょ? ならもう安心だ~って思って……」 |
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うさ子 「う、ううーん。あの……敵だったらどうするんですか。 街の人でも侵略者に味方する事はあるんですよう? 騙すことだってある、でしょ」 |
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莉稲 「でも、うさ子ちゃんは私を助けに来たって言ってくれたから。……信じてみました!」 |
あっけらかんと言い放つ笑顔はとても健康的でのびやかで。彼女には何を言っても仕方ないと思えば自然と力が抜けた。
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うさ子 「……。」 |
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鰐淵さん 「なンつーか……見てて心配になるな」 |
彼女は愚直で清純で危なっかしい。やはり、いつもの莉稲だ。違うのは、その脚だけ。
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莉稲 「うさ子ちゃんは卵焼き、好き~? わたしね、卵焼きが上手に作れるようになる異能なんだけど、 ここに来てからは不思議とずっと調子が良いんだあ。 お料理できそうなもの見つけたら、うさ子ちゃんにも美味しいもの作ってあげるね~」 |
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鰐淵さん 「良いねェ、俺も食いたくなっちまう。 ともあれ、保護したからには一緒に安全な場所まで行くジョー」 |
口振りからして、鰐淵さんも彼女を受け入れてはくれたらしい。
一先ず彼女を陣営の拠点まで送り届けるのが先決だ。
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うさ子 「よ、よろしくね? 私、頑張って守りますから!」 |
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莉稲 「……ぬいぐるみが喋って動いてる!!」 |
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うさ子 「今更……!?」 |
その道程には、どこか緊張感が欠けそうに思った。