赤い、夜が来る。
否、其処に夜はない。昼もなければ、陽の廻りという概念さえ存在しない。
──そう。ここに、希望の朝は廻り来ない。
「なん、だよ。アレ……」
瞬きの間で訪れたハザマ。以前ここで現れたのは、不定形の赤黒い成り果てたナニかであったが、眼前のそれは明らかに違う。
一方、獣面の怪人。人間のそれを遥かに越える体格に、見るものを竦ませる威圧感。そして何より、ソレは何らかの道具を提げていた。少年にはそれらが、何に使われる物かわからない。だが少なくとも、愉快な物ではないのは明白だった。
一方、青黒い不定形。 もう一方よりは威圧は薄いものの、人外という点では何も変わらない。むしろ半場な意志疎通さえ図れないという点では、怪人よりも厄介に思えた。
判断に、迷う。
前回は、問答無用に襲われた。襲いくるなら、対応は『外敵』の迎撃の一点に定まる。このハザマという場所が、そうした驚異に他ならない事は嫌というほど解らされた。
だがらこそ、迷う。
目の前の『それら』は、本当に『外敵』なのだろうか?
まだ、襲われていない。そう、まだだ。
今はまだ無事という、ただそれだけの話。
だが一度襲われてしまえば、その恐ろしさは間違いなく暴威となって自分の身に降りかかる。
今度もまた無事に済む──そんな保証など、どこにもないというのに。
わからない。判別がつかない。
銃口を向けるべきなのか。ボクはまだ誰も殺してない。『まだ何もしていない彼ら』へ、自分から牙を剥く事は、果たして本当に許される事なのだろうか。
自分にはこんな使命の覚悟など、未だついていないというのに。
「とうとう来たか。思ったより早い」
「スイ、レイ」
けれど傍らの異母兄(あに)は、そうではない。
揺らがず、迷いなく、ただ眼前に現れたモノを男は見据える。半身に構えた所作は、いつでも動けるという臨戦体勢に他ならない。
「おい……おい、どうすんだよ、スイレイ!」
「決まってるだろう。僕の……いや、僕らの使命はなんだ?」
満ちる湿威。集うは水気。どこからともなく生まれる流動。
振るう腕に、大きな波涛が付随する。
「世界を滅亡(アレら)から護るための、盾だよ」
その力は、屋敷で垣間見たものの比ではなかった。
この地によるブーストもあるのだろう。されど今のこれこそが恐らく、盾たる力の本領。
そしてそれは翻せば、これ程の力量を振るわねばならない脅威が来るという証左に他ならない。
「君は下がっているといい。闘えないのなら、ただ危ないだけだ」
「ばっ、バカにすんな!」
強がる。弾かれたように、声を荒げる。嘗めてくれるなと、自分自身を奮い立たせて並び立つ。
何がおかしいのか。異母兄はただ、こちらを見てにっかりと笑っていた。