『いたいっ!』
”行くぞ。足を止めても、また石が飛んでくるだけだ”
『いたいよ!どうして皆、こんなひどいことするの!?』
”それはお前達が民を殺し、食らっていたからだ”
『……お、おいしくないし、あんなの、食べたくなんてなかった!』
”だが、結局食っていた。お前も、一族の他の者と同じように”
『…………それは、だって……好き嫌いはだめだって、ママに……』
”怪物の内心や過程など、食われた側が考えてやる事ではない”
未だに心が落ち着く様子はない。きっと、ずっと落ち着くことはないだろうけど。
だけど”あちら”での出来事は止まらなくて、たくさんの思いが頭を塗りつぶしていく。
何かを考えていないと、今におかしくなってしまいそうだった。
だから、”あちら”で出会った人達の事を考えてみよう。
シキは無事だ。それに、化け物なはずもない。
なら、他の皆はどうなんだろう?叔父さんは一緒なんだろうか。
メツ高の人達は?ユイちゃんは?クロトさんは?他にも思いつく名前は幾つかある。
その中のどれだけの人が無事で、
その中のどれだけの人が、侵略者なんだろう?
あまり気楽には考えられない。あたしが”そう”なんだから、きっと他にもいる。
だからってどうしようかなんて、まだ思いつかないけど。ただ、それに思う事があるとすれば。
あたしが会いたい人は、知ればやっぱり傷ついてしまうだろうということだけ。
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息を整えてふと顔を動かすと、視線の先に”色”を見つけた。
この薄暗い世界で目を引く、だけど今となっては少し懐かしくすら感じるそれ。
一体誰が描いたのか――なんて、少しも考えることなく思い至ったことを、何故だかちょっぴり誰かに自慢したくなる。
ただ、いつも見ていたものと違う所がひとつ。
まるで動き出しそうな、生きているみたいな絵なのは変わらないのだけれど。
その絵には、瞳がある。それは当たり前のようで、あたしにとっては当たり前じゃないこと。
見ている自分が映り込みそうなその目の前に立つと、そのまま、これを描いた彼にまで見通されているようで。
あたしは改めて、自分の姿がとても醜いものに思えた。
だから、ただ黙っているのが苦しくて。その龍の絵に向かって、言葉を吐き出すことにした。
『こんな化け物でごめんね』って。
きっとこれは、後でもう一度言わないといけない言葉なんだけど。
『そんなの、あたし、どうしたら良かったの……』
”どうしようもなかった”
『そんな、そんなこと……』
”お前は生まれてきたことが罪であり、怪物の居場所はこの世界にはない”
『…………じゃ、じゃあ、あたしは……』
”そうだ、お前は”
”……私達はきっと、はじめから生まれてくるべきでは無かったんだろう”