『To:ママ
From:鈴咲
title:今日の報告
イバラシティでの生活にも慣れてきました。
まだ行動範囲はあんまり広げられてないけど、自分が住んでる地区のことはわかってきた。
わたしが住んでるのは、ミナト区っていう地域で海が近くにある場所。
すっごく賑やかって場所ではないけれど、静かでのんびり過ごせるいい場所だよ。
ヒカラビ荘っていう年季が入ったところに住んでて、毎日を楽しく過ごしているので安心してください。
そうそう、ヒカラビ荘でお友達もできました。
一緒にお絵描きした遊んだりするうぱさん、そのうぱさんを大切にしてるたんていさん。
うぱさんと一緒に遊んでいるときに遭遇した、落書きの魔のもののネコヤ。
それから、優しいなずみお姉さんとお隣さんのウィグお姉さん。
頼りになるお兄さんお姉さんって感じがする稲谷お兄さんと、マリーベルお姉さん。
お隣さんのウィグお姉さんとは、一緒に星を見る約束をしたりお花見に行ったりしました。
またウィグお姉さんの似顔絵か写真も、一緒に送ります』
――――
……これは、一体どういうことなのだろう。
目の前に浮かぶ表示を見て、鈴咲は呆然としていた。
自分の呼吸がわずかに震えているのがわかる。
指先が凍りついたかのように、上手く動かせない。
全身に氷水をかけられたような衝撃が、嫌な心臓の鼓動が鈴咲の全身を支配していた。
「……そんな」
ようやく絞り出せた言葉はカラカラに乾いたものだった。
Cross+Roseで連絡を取ろうと思った相手は、侵略者側の人間だった。
嘘だと思いたかったし、突然慣れない環境に放り出されたことによるストレスだと思っていた。
だが何度見直しても、目の前に出された現実は何も変わらなかった。
鈴咲の脳に、イバラシティで彼女とともに過ごした日々の記憶が蘇る。
はじめて出会ったときは肉まんを貰って、自分は缶のおしるこを渡したはずだ。
そのあとは星を見る約束をしたり、ネコヤと出会ったきっかけの事件のときは一緒に絵を描いたりもした。
面倒を見てくれてる詞花が肉じゃがを作りすぎたときは、肉じゃがを分けたりもした。
一番新しい記憶では、ミナト海浜公園の丘で一緒にお花見をした。
彼女と一緒に作った思い出はたくさんあるし、それは鈴咲にとって大切な思い出だ。
――だからこそ、突然叩きつけられた“現実”は信じられないものだった。
「……ウィグお姉さん」
小さな声で彼女の名前を呼ぶ。
信じられない、信じたくない、だが同時に理解している――これが“真実”なのだと。
真実がいつでも優しいものとは限らない、それは母も口にしていたことだ。
苦い気持ちを押し込めるかのように、自分の唇を噛む。
血がにじむほどに噛みしめて、大きく深呼吸をして、目の前の“真実”を睨みつけて彼女と連絡を取るために凍りついていた指先を無理やり動かした。
たとえ。
たとえ彼女と戦わなくてはならなくなっても、自分が足を止めるわけにはいかないのだ。
両親の下へ戻るために。