とす子が小学生になったばかりの頃に祖父母宅に引っ越した。
それからすぐに両親は仕事でしばらく帰ってこれないという話をされた。
両親がいないことを時たま寂しく感じるけど、とす子には兄がいるので平気だ。
兄はとす子が寂しがると一緒に寝てくれるし、一緒に遊んでくれるし、休みの日は自転車の荷台に乗せていろいろな場所に連れていってくれる。
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クィン 「とす子! 聞いてくれ!!」 |
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とす 「どうしたの?」 |
縁側でゲームをしていたら、兄がなにやら嬉しそうな様子で話しかけてきた。
とす子はゲームを中断して兄に振り向く。
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クィン 「うむ! 実は……実はな………!」 |
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とす 「うん……!」 |
なにがあったのだろうか。たぶん楽しい話だ。兄につられてとす子もわくわくして、続きの言葉を待ち望む。
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クィン 「見てくれ!!」 |
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(クィンの背後からぬっと出てきて友好的に手を振る) |
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とす 「えっと………?」 |
大人くらいの大きさの二足歩行のクマの着ぐるみ……? ふわふわというよりぶよんとした感触が返ってきそうな外見だ。顔や模様はどこか見覚えがある………?
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とす 「ん……? んんん……? もしかして、クマタロウ!!」 |
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クィン 「そうだクマタロウだ! 兄が部屋に戻ったら動いていたのだ!」 |
クマタロウはとす子のお気に入りのぬいぐるみだ。
今のとす子の体よりはちょっと小さいくらいのくまのぬいぐるみ。
なんでもとす子の生まれた日に両親がプレゼントしたものらしい。
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とす 「どうして!? どうして動いてるの! すごい!!」 |
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クィン 「それは…兄にもわからぬが、動いてるのは確かだ! 家族が増えたな!!」 |
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(逆立ちして両足を左右に開く愛嬌のある動き) |
それからクマタロウは家族の一員になった。
気が向けばとす子と遊んでくれるけど、だいたいは自由気ままに動き回ってて、
とす子の遊び場でもたまに顔を見たりする。
家の手伝いはしてくれない。
とす子が小学4年生になってもどうして動くのかもわからないままだ。
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一回目のバトルが終わった。結果は運良く勝利。言われた通りに動いただけだが勝てたのは素直に嬉しい。どうやらとす子と行動してる人たちは結構強いらしい。思ってたよりとす子は幸運の星の下に生まれてきたらしい。
ただ、ひとつだけ。
とす子にはどうしても見逃せないことがあった。
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とす 「ねえ! さっきのバトル、あんた参加してなかった! どうして!!」 |
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エインモーネ 「……………」 |
エインは知らんぷりの態度でてくてくと先を歩いてしまう。
とす子は体が小さいから小走りしてようやくエインのローブの裾を掴むことができた。
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とす 「黙ってないで答えなさいよ」 |
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エインモーネ 「……私は『あんた』ではない。エインモーネだ」 |
とす子がすごんで見せたのに、エインは悪びれた様子もなく、むしろとす子が悪いことをしたので嗜めるという態度で淡々と返す。エインは体が大きいし、大人だから、圧をかけられると怖く感じる。むぅと唇をとがらせて、とす子はエインモーネと言い直す。だけど噛みつく姿勢は崩さない。
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とす 「どうしてさっきのバトル参加しなかったの!?」 |
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エインモーネ 「…………」 |
きゃんきゃんと鳴くとす子に、エインモーネはどこを見てるのかわからない顔で小さくため息をつく。あまりにも小さいのでとす子は聞き取ることができなかった。
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エインモーネ 「……なぜだろうな。他者に危害を加える意思を持てない。どうやら私は戦いに参加できないようだ」 |
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とす 「は!!?? つまりあんたはアンジニティ陣営ってことなの!?」 |
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エインモーネ 「『あんた』じゃない」 |
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とす 「………エインモーネ」 |
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エインモーネ 「アンジニティなど出てくるべきではない、それは本心だ。戦い以外で貢献する。すまないな」 |
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とす 「む~~~~~~」 |
なんだか、それならそれでいい気がするけど、ごまかされた気もしてとす子は反論できないままモヤモヤした。