"『我』にも親しいと呼べる者は居た
皆が『我』に畏れ戦く
そんな『我』を対等に接し様々な知恵を与えた者"
"彼奴は国を統べる王であり一柱の神だった
と言っても主や他の神よりは知名度も神としての力も低かったし世辞にも位は下から数えた方が早かったな
生まれつき体が弱く表立って動けなかったのも要因だろうし神らしい事ほとんど成して無かったから仕方ないのだろうが
だが、長年で培った叡知と分け隔てなく向ける慈愛により誰からにも愛されていた
ああ、叡知と慈愛で神として信仰されてきた存在ではあった"
"ある日、王は病に伏せ療養を余儀無くされる
其奴は血色の喪われ掛けた、しかし何時もの笑顔で『何のことはない、只の風邪だ』と言っていた
『我』とて■の象徴。其れぐらい察するのは容易だった、此奴はもう『長くは無いのだと』
『我』は看取る事にした、最後まで、最期まで――――"
その数日後、友は此の世を去った。
"今、神は死なないだろと思っただろう?
だが、とある神話では良く毒によって死に、呪いによって死ぬだろう?病よって死ぬのも運が悪ければ起こり得る一つの終わりなのだ"
"結末は端から見れば恐らくは『残念だった』という物なのだろう
しかし其奴は安らかに眠るように此の世の生を終えた
『我』は其奴の生を最期まで看取れる事が出来た事に寧ろ誉れの様に感じていた
それなのに"
―――
『病弱だったとは言え以前まで、あんなに元気にしてらしたのに…』
「あまりに突然過ぎる死よね…不可解な程に」
「そうだよな。きっと、あの『死神』が力を行使して王を殺したんだ!あの『疫病神』が王の近くに居たから王は死んだに違いない!」
"そうだ、そうだ!と周りは彼の言葉に賛同している…"
"――違う
『我』は何もやっていない、只、彼奴を看取っていた
そんな事に力を使ったりしない"
"何故、信じてくれない…?何故・・・"
"其れから彼等からの批判がエスカレートしていった"
『出ていけ』、『疫病神』、『此方に来るな』、「王様殺し」、「化物」
"大衆からの謂れの無い罵詈雑言や負の感情、悪意などを浴びせ続けられ
武器や物、聖水等の様々な物を投げ付けられた
数年間、大衆から斃されては復活しまた斃される等と言う拷問じみた事もされた
『我』はそれらの『悪意』や『害意』を返すことは出来なかった
其れをやってしまえば『我』は大衆が考える人物像と同じになってしまう気がしたから"
"――あの国に見切りを付けて去るまで『我』は一切、彼等が思うような行動はしなかった、つもりだ
しかし此の地に咎人として堕ちてからは罪人を罰しながら『我』はふと、思うのだ"
――奴を看取ったあの時、『我』は実際にどうすれば良かったのだろう
――どうしたら奴等から理解をして貰えたのだろう
――『我』は永遠に理解されぬまま『悪』として生きなければならなかったのだろうか
――想う事自体が初めから『間違い』だったのだろうか
"今となってはもう解らない
幾ら考えても過ぎ去りし過去も此処に居る今も罪人として生きていく此れからも
変わらないし変えられない"
"なぁ、あの世で見てるか
『我』は此れからも変わらずに生きていく事になるだろう
願わくばお前があの世で『幸せ』になっている事を願っているよ"