○月△日
ボクは嘘つくの苦手だった。
お姉ちゃんの分のクッキーを我慢できなくて食べちゃったことがあった。
黙っていれば、普段通りにしてればきっとバレなかったとは思う。
でもずっとそわそわしちゃって、部屋でひとりなのにずっとうろうろしてた。
そのうちお姉ちゃんが帰ってきて「どうしたの?」って一言言われただけでもうだめだった。
まだ怒れてないのに泣きそうになりながら謝りはじめたからお姉ちゃん少し困ってたの覚えてる。
今はそんなに臆病じゃないというか、流石に涙浮かべることはないとは思うけど……。
でもそんなに昔ってわけでもないしわかんないや。
……今の状況だってきっと黙ってればバレないんだとは思う。
イバラシティとアンジニティ。
ボクはイバラシティの住人じゃなかった。堂々とアンジニティから来たって自覚もないけど。
ボクの居場所なんて。
他のアンジニティの人は元々の格好が違う人が多いみたい。見た目すごく怖い人。
ボクは全然変わってなかった。元々そっちの世界でもきっと馴染めてなかったんだろうね。
だから黙ってればずっとイバラシティにいる人だよって隠せたかもしれない。
でも。
隠し事しながら一緒にいるなんてきっとボクが耐えられない。
だから隠さずに伝えてる。
それで裏切られたり一緒にいてくれなくなる人じゃないってわかってるから。
…そう信じてるからきっとあのイバラシティにいたいって思ってるんだと思う。
ご丁寧に与えられた偽りの記憶をもう少し楽しんでやる。
もしかして。
もしかしてこの世界にお姉ちゃんについてのことって何かわかったりしないのかな。
元いた世界とかアンジニティとかイバラシティとかハザマとか、少し考えて不思議なことばかり。
急に世界が変わったり記憶がつくられてたりなくなったり侵略されたり取り残されたり。
ひょっとしたら急にいなくなったお姉ちゃんも何か関係あるのかもしれない。
もしかしたら、もしかしたらここにお姉ちゃんがいる可能性だってあるのかもしれない。
どこなの、お姉ちゃん。
お姉ちゃん。
あのよく頭の中に出てくる男、榊とかいったっけ。あいつが何か知ってるかもしれない。
どうにか調べたりできないのかな。
お姉ちゃん。
ごめんねお姉ちゃん。
きっとボクが小心者で弱いから呆れて目の前からいなくなっちゃたんだよね。
いつも甘えてばっかでごめんなさい。
すぐに泣きついてごめんなさい。
まだまだボクにはお姉ちゃんが必要だから。
また絵本読んでほしいよ。お風呂で届かないところ洗ってほしいよ。一緒に寝るまでベッドの中でお話ししてたいよ。
また抱きしめてほしいから。
ボクがお姉ちゃんを探す。
探す。
絶対。
次お姉ちゃんに抱きしめてもらった時に安心してもらうように。強くなったって褒めてもらうために。
お姉ちゃん。
ねえお姉ちゃん、待ってて。