……それは、"あの悪夢の日"から10日が経ち、
警察の職員が調査の経過報告へと家を訪ねてきた時のこと……
重苦しい空気の中……職員からその言葉が告げられた。
『ご家族の皆さん、どうか、気をしっかり持って聞いてください――
調査の結果を申し上げますが、娘さんは――……』
『 お気の毒ですが……編美さんは何者かによって誘拐された可能性がかなり高いと言えます 』
身体の内側が鉛の棒が入っているかのように重く、
周りの空気も、視界も全部遠くなっていくような感覚があった。
絶望的な現状を告げる言葉が、真っ白な頭の上をぐるぐると駆け巡る……
……隣で、お父さんは石に様に固くなって動かなくなり、
お母さんは力無くよろけて、お父さんがそれを寸でのところで支えたのを、気配で感じていた。
その日、それから後にどの様に過ごしたのかは。よく、覚えていない……
「…………」
私は、"また"ベッドから起き上がれなくなっていた。
警察職員の言葉を思い出すと、また目から涙が溢れてきた。
どの位の時間を泣いて過ごしていたか、よくわからない。
お父さんもお母さんも仕事があるのに……特にお母さんはそんな私を心配して
ここ何日かはずっと仕事を休んで家にいる。このままじゃいけないと、わかっているのに――
「どうして……編美…………」
――職員はあの後、まだ不可解な部分もあるだとか、
編美が異能に目覚めて自分の意志で何処かに行った可能性もあるだとか、
色々付け加えたりもしていたけど、そんなの気休めにすらなるわけがなかった。
そんなことより――編美は、居ないんだ。
今、ここに編美は居ない。
私たち家族の掛け替えのない編美が……
「どうして……」
どうして私たちはこんな目に遭わなければならないの?
どうして……
どうして編美がさらわれなければならなかったの?
一体どうして……?
どうして……どうして編美を狙ったの?
――どうして??
どうして…………一体、誰が?
――悲しみから、一転。
そうだ……一体……誰が……
誰が、編美を……? 誰かじゃないの……集団?
そうだ……犯人が、居るんだ。
編美を、さらった奴が――
頭の中で、姿も顔も知らない何者かを思い浮かべそうになったその時。
沈んだ心の奥底にあるガサガサとした何かに火が着くような感覚を覚えた。
(…………い。)
無意識のうちに心の中で声が出る。
(……さない。)
(犯人を絶対に……許さない――!!)
「……!!」
――跳ね上がるようにベッドから飛び起きる。
「はあ……はあ…………」
呼吸が荒立ち、心臓の鼓動がドクドクと鳴り響く。
……と、その時。
突如 ドサドサッ と、部屋の片隅から物音がした。
「…………え……?」
音がした方向を向くと、怒りと憎悪に包まれかけた感情は
みるみるうちに驚きと戸惑いに変化していった。
そこには――編美の持っていた……いや。自分が編美にあげたヌイグルミ達が、
明らかに棚からひとりでに落ちたように、バラバラに散らかっている光景が広がっていた。
(………………。)
立ち上がり、ふらふらとヌイグルミ達に近づく。
そして、そのまま震える腕で1号から4号までの4体とも抱き抱える。
するとその時――――