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りりぃ 「ん…あれ……?私……」 |
朦朧とした意識の中で感じたのは、頬に当たる冷たい石の感触。
何故…?と頭に疑問が浮かんだけれど、それはすぐに自分が地面に寝ているからだと気がついた。
どうして地面で寝てなんていたんだろう?
長い夢を見ていたような感覚。ぽーっとしたままに体を起こして暗がりを見回す。
…辺りに散らばる小石を見ると、何だか胸がざわざわとした。
大切な、何かを、忘れているような。
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りりぃ 「…ここ……何……?」 |
周りを見回しても、そこは全く見覚えのない場所で。
がやがやと人の気配だけはして、声が。音が。頭に響く。
何だかひどく気持ちが悪い。早く、早く帰らないと。
…………そう、”大切なもの”を持って。
”私”は迷わず辺りの小石を拾い集めると、ポケットの中へと仕舞う。これで、大丈夫。
折角集めたんだもの。失くしちゃったら勿体無い。
ほっとした”私”は、こんな状況なのに思わず笑顔を浮かべてしまった。
違う。
何で…?こんな小石を、私は何で、大切だって…。
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りりぃ 「ひっっ……!?」 |
疑問を浮かべて手の中を見れば、そこにあったのは小石なんかじゃなくて。
歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。
歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。
歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。歯。
人の歯。獣の牙。血と肉片のこびりついたソレは、無理やり抉りぬいたような痕跡に満ちている。
そのおぞましい物が、
”私”には宝物のように思えて。
気持ち悪くて吐き出しそうなのに、
愛おしくて口づけたい。
相反する感情が、朦朧とした頭を更にグチャグチャに掻き回す。
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りりぃ 「ちがっ…わたし…私…っ!!」 |
怖くて、逃げ出したくて。たまらず駆け出した私は時計台と、以前見た…あの人に出会った。
説明を聞いて、思い出したのはいつか聞いたアンジニティが攻めてくるという話。
ソレは巧妙に、世界に紛れ込むという言葉。
頭に浮かぶのは…………アンジニティで、歯を奪って回った光景。
嫌がる子供の。年老いたおじいちゃんの。きれいな顔のお兄さんの。
奪われた人は皆苦しそうで。中には死んでる人も居て。
……それなのに、記憶の中の”私”はとても、とても嬉しそう。
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りりぃ 「………そっ、か………」 |
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りりぃ 「私、アンジニティだったんだ……。 パパとママの、子供じゃ………なかったんだ…………!」 |
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りりぃ 「う…うぁあぁ……うあぁぁぁあああ…!!! ごめ…なさい…!ごめん…なさい…!! 私…違った…違ったのに……!!」 |
愛していると言ってくれた。自分のことが、何よりも大切だと言ってくれた。
そんな二人の想いに応えられる自分じゃなかったことが、何よりも哀しくて、悔しくて、申し訳なくて。
泣き続ける私に、赤いばけものが迫る。
ぐじゅぐじゅとした体はまるで肉塊で出来た亡霊のようで、声にならない声が恐ろしくて。
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りりぃ 「せめて……私が、やらないと……」 |
パパとママの子供じゃなかったなら。アンジニティだったなら。
怖くても、何でも。そんなのはどうでもいいんだから。
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りりぃ 「せめて…守らなきゃ……」 |
声が震えているのが分かる。ポロポロと止まらない涙で視界はグシャグシャで。
それでも、大切な人たちがこんな世界に傷つけられる方がもっと怖くって。
世界を奪われてしまうことが許せなくて。
手に力を込める。異能に意識を集中させる。
異能は宝物たちに纏わりついて、ふわり舞い上がり。
カチカチと、ギシギシと音を鳴らし威嚇する。………うん。大丈夫、戦える。
だって私は、骸の歯を操る汚らしい、追放者なんだから。