どうやら、侵略というのは本当だったらしい。
――ぼうっとした、不良品の脳みそに叩き込まれる
"そういう設定の夢"のような話
御手洗忍は、それがまだ現実として認識できていなかった。だから
そんなの、どうでもいい
なんて、子供みたいなことを思えるのもそのせいかもしれない。
ショックは思ったよりない。むしろ、この現実に対する感情は『無』だった。
たとえば、周りの仲間がみんなアンジニティの住民だろうが、なんだろうが
戦いたい、守りたいと思えるほどの価値なんてあるのかがわからない。
自分自身にすら、その価値を感じない。
それ以上に、
自分の力が戦争の何に使えるというのだろう。
あるかもわからない便所にテレポートして、隠れて飯でも食えというのだろうか!
兄のように『正義のヒーロー』になんてなれるわけでもない
『守りたい大事な人』なんて──捻くれた、普通の高校生に期待できるものなどないんだ。
Q.イバラシティ側か、アンジニティ側、どちらか?なんて
A.どちらもめんどうだに尽きてしまう。
――廃れているが、どこか見覚えのあるような景色。
大きな時計塔、ここは『ハザマ』というらしかった。
どうでもいいと思いながら、体は、本能的に危険から逃れようと動いてしまう。
襲い掛かってくる化け物から逃げ、哀れに地面へ転がる体。人間の喧嘩とは訳が違った。
手から滴り落ちる赤色を見て、くらくらしていた頭がようやく現実を取り戻したような心地。
逃げるのは得意だ。そういう異能
『瞬間移動(テレポート)』を持って生まれたから
――でも、いつも結局、行き先は
『特定のトイレ』だった。
まるで決められたレールの上を歩いているようで、逃げることに使うには危うさを感じていた。
使い手の腕次第なんだろう。それが強いか、弱いかが決められてしまうのは。特異な異能であれば余計に。
だから、御手洗忍は『弱かった』
弱くて、不器用で、逃げるばかりで――それゆえに、ひどいこともあった。
人に異能の存在を知られたくない。人前では絶対だし、ひとりですら頻繁に使うことをしない。
けれど、この時ばかりは、役に立つのではと思ってしまった。
でも、ひとつだけ懸念がある。彼は当然、ハザマという場所には初めて訪れたわけで。
そしてまだトイレを見ていないし、使ったこともない。さて、こんな時に異能を使えばどうなるのか――
――その答えは、あるひとつの可能性を生み出した。
発動しないとか、異空間に飛ばされるということはなく
内心ほっとしながら、自分が先ほどつけた血だまりを見つめる。
どうして、ここに移動できたのか。
素直に考えるなら、自分の血が関係あるんだろうけど
――ポケットには『試してみるべきだ』とでも言わんばかりにカッターが入っていて……
試す他、なさそうだ。
生き血は滴り、また新たに地面を赤に染め上げていく
いつもなら目を閉じて、集中して 行き先を想像して
地面を蹴って、勢いよく走って『僕は飛べる』なんて念じるものだけど
今だけは、行きたいと思った場所へ、ほんの一瞬、強く思うだけで
異能、テレポーテーション【Type-D】は発動してくれた
そして、予想通り"滴らせた鮮血の元へ"御手洗忍の体は吸い寄せられる
![](https://dl.dropboxusercontent.com/s/8mg707178ygf3uy/ms98.png) |
御手洗 忍 「 ……まさか、偶然じゃないのか……?」 |
この時ばかりは『偶然』という言葉が煩わしく思えた。
なんども、確認するように瞬間移動(テレポート)を繰り返す。
御手洗忍にとって、今世紀最大の発見かもしれないのだから!
![](https://dl.dropboxusercontent.com/s/zdje8p723200icv/21.png) |
御手洗 忍 「 やっぱり何度やっても"血があるところに"来る……これって……」 |
これまでの御手洗忍自身の異能の認識は
『特定のトイレに瞬間移動ができる』だった
しかし今の、御手洗忍の異能の認識は
『自分の血のある場所へ瞬間移動ができる』となった!
では、なぜ今まではトイレに行ってしまったのだろうか。
考えうるのは、自分の体内にあるものに反応して移動ができるという――
もはや、そんなことは
彼にとってどうでもよかった!
![](https://dl.dropboxusercontent.com/s/zdje8p723200icv/21.png) |
御手洗 忍 「 そうか……そうだったのか……僕の異能、トイレじゃなかったんだ……!」 |
なんで、今まで気付かなかったんだ
なんで誰も教えてくれなかったんだよ!
――御手洗 忍の見ている景色が──世界が変わった瞬間だった。
![](https://dl.dropboxusercontent.com/s/wcyzknsr8wyr429/0.png) |
御手洗 忍 「 ……ふ、ふふ……くくくく……」 |
![](http://tyaunen.moo.jp/txiloda/picture.php?user=osabutabeta&file=angi01.png) |
御手洗 忍 「 ははははははははははははは!!!!!」 |
御手洗 忍
偶然にも"トイレテレポ"の呪縛から解き放たれ
生まれ変わった。ハイテンション。
![](http://tyaunen.moo.jp/txiloda/picture.php?user=osabutabeta&file=angi07.png) |
御手洗 忍 「 僕の異能は――」 |
![](https://dl.dropboxusercontent.com/s/wcyzknsr8wyr429/0.png) |
御手洗 忍 「 僕は、弱くなんかないじゃないか!血さえぶちまければ、どこへだって行ける!今までのクソ仕様より1000倍も最高だ!」 |
御手洗忍の中で
『高揚』がふつふつと湧き上がる
それは、この異能のせいで受けてきた屈辱にも勝るものだった。
――この感情を、どこへ向ければよいのだろう?
![](http://tyaunen.moo.jp/txiloda/picture.php?user=osabutabeta&file=angi02.png) |
御手洗 忍 「 (僕は、御手洗忍だ。イバラシティ、ツクナミ区で生まれ育った。 アンジニティとかいう、侵略者じゃ、ない……)」 |
それなら、生まれ育ったイバラシティのみんなに、このことを知らせて
――なんて思うわけなどない。
彼の胸の内にくすぶっているのは、侵略者のアンジニティに対するそれより
イバラシティのこれまでの生活、境遇、人間への憎しみのほうが大きかったからだ!
![](http://tyaunen.moo.jp/txiloda/picture.php?user=osabutabeta&file=angi02.png) |
御手洗 忍 「 イバラシティなんか守るわけねーーーーだろ! バーーーーーーカ!! 僕は、最初からアンジニティだ!」 |
![](http://tyaunen.moo.jp/txiloda/picture.php?user=osabutabeta&file=angi02.png) |
御手洗 忍 「 そうだ、散々僕をバカにしてきた、イバラシティのヤツらに仕返ししてやる!」 |
![](http://tyaunen.moo.jp/txiloda/picture.php?user=osabutabeta&file=angi07.png) |
御手洗 忍 「イバラシティなら、僕がやらずとも、兄貴が守ってくれるんだろ?」 |
イバラシティの人間相手に、罪に問われず――と、御手洗忍は認識している――
好き勝手暴れられるのは都合がよかったのかもしれない。
周りの見えていない御手洗忍に、迷いはなかった。
――ここでは、僕は無敵だ!!
それならなにもかも全部ぶちまけて、壊して、報復して、悪を――貫いてやろう!
そのほうが、楽しいに決まっている!
裏切り者の、侵略者として!