関わってはいけない人物"ブラックリスト"。
そんなタイトルの掲示板が学生中心に賑わっている。それに気がついたのは、5組目に同行を拒否された後。
始めは異様な事態に巻き込まれた焦燥から酷く排他的になっているのだと勘ぐっていた。しかし、余りに話が取り合われない。
その違和感には確かな根拠が存在し、探ってみれば、カ行の羅に自身の名前を発見したのである。紺出樹也羽。葉色高校。2年1組。掲示理由。コメント。親切に顔写真まで乗っている。
情報の確実性はともかく、身内に不穏分子を進んで入れたくは無いだろう。至極当然の対応を彼らはしていたのだ。
誰がこんなことをと嘆く気にもならないほど、身に覚えはあった。恨みは買うほうの人間だから。
さて対象が学生である以上、情報から逸れた大人の集団に紛れ込む事ができれば、多少なり身の安全は確保できる。
ただ取り付く鳥が無い。そして攻めあぐねている内に、要領の良い連中は群れをつくってこの場を去っていく。
―――――タクシーを降りてからどれだけ時間が経ったのだろうか。
「もう走れない…。ゼッタイ無理死ぬ…」
ひしゃげた電柱に千切れた導線が垂れ下がり、上半身の砕けたビルからはセメントの臭いがする。根強いファンのいる崩壊後の世界を舞台としたアクションゲームのような景色が一向に途切れない中、まだ搔き分けられるだけの人混みが幾つかあることに安堵しつつ、こちらに軽蔑や怪訝な目を向けていない人物を、酸素不足でぶれた視界で探す。
掲示板を見てなお味方になってくれる人間には心当たりがあった。似た理由で彼らを目的とする存在なんていくらでもいる。そうでなくても引く手数多だろう。だからこそ、早急に補足しなければならない。中学の頃の持久走ですら、半分以上走り続けた記憶はないというのに。
あっ。
白くふさふさしたものが、端に映った。
……大型犬の尻尾だ。
そして成人男性グループの背後に、見覚えのある小さな後姿が見える。艶のある金髪、一目で育ちの良さを脳髄に叩きつけられる佇まい。
突然の加速に自ら蹴躓きそうになり、そのままみっともなく駆け寄った。
「…………は、はふりちゃん」
必死で呼吸を整えて、咄嗟に口を付きかけた言葉を喉元で練り直す。
「えっと、大丈夫だった?」