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私の敵"アヤカシ"は、人の欲望を増幅させて力にする化物だ。
こんな生き物のありかたは到底マトモではない。正しくない。
私の仕事は、健全で、正常で、普通な人々の生活を守ること。
"アヤカシ"を倒して、斃して、すりつぶして、世界を正常に維持することが使命だと、小さい頃から教えられてきた。
知られなくても、感謝されなくても、人々の力になることが私の生きている意味なんだって、そう言われてきた。
「……ううっ……っ」
じゃあ、この私の足元に倒れているものは何なんだろう。
………
この街にはあまりにも欲望が多すぎる。
万人が異能を持つ街、イバラシティ。
子供でも大人でも、何らかの不思議な力を持つ……私にとってはとても異常な街。
この街は力にあふれている。そしてその力は人々の生活そのものだった。
異能の隣にはいつも欲望があった。
他者よりも強くなりたいという欲望、さらなる力への羨望、憧れ、そして、それを使いたいという思い。
好きに使える自分だけの力は、とても魅力的で、とても素晴らしいものだ。
だからこそだろう。
この街では、"アヤカシ"はあまりにも強い。
誰でもいいのだ。誰を誑かしても最悪の結果へとつながるのだから。
そして、人々もその力を求めた。
彼らにとって、"アヤカシ"の力はとても魅力的で、そして違和感のないものとして映ったのだ。
彼らにしてみれば、"アヤカシ"の力も、ただの素晴らしい異能というカテゴリーに過ぎなかったのだろう。
現に、私が来てからも……彼らの領域は拡大を続けている。
そんな中で、"アヤカシ"だけを倒すなんて、できっこない。
力を望んだ人々にだって、私は敵でしかなかったのだから。
………
「……は……っ、は……っ、ごほっ……もう、やめて……」
これは、どっちの声だろう。
とても苦しそうな声だ。
私なら大丈夫だ、我慢できる。
でも、目の前の人はどうだ。
私には力がないから、ただ、頬に手を添えて慰めてあげることしかできない。
――ゴキッ
意外と小さな音だった
「ううっ……うっ……ぐす……っ」
こんな感触、知りたくなかった
こんなに暖かくて、こんな匂いがして
こんなにも赤くて、こんなにも柔らかくてそれは……私の中にあるものと一緒なのに
私はこんなことのために、今まで
あぁ。世界が曲がって見える。全部が傾いて見える。
う、うううっ……っ
ぐす……
ぐすん……