『なぜ、自分の所には正義のヒーローが助けに来ないのだろう?』
数年前の彼女の人生はずっとそんな事を考えながらの、
ただ生きているだけのものであった。
『彼等はもっと大きな物の為に戦っている』
『学校のいじめ等という小さな問題は、自分自身で解決するしかないのだ』
心身が擦り切れ、千切れそうになっていた彼女はいつしか……。
『こんな奴らはいつでも始末する事ができる』
『私は今、あえてこいつらに好きな様にさせているのだ』
『好きでやられているのだ』
そう考えていれば、長い長い一日を生き抜く事ができた。
そんな彼女に転機が訪れたのは、高校三年生になってからのある日。
──否定の世界──
そこで味わった……これまでのいじめ等、まるで児戯でしかない凄惨な体験。
生還のきっかけとなった、異能への目覚め。
現世に戻り、それまでの記憶を失い"力"だけを認識した時の彼女の恍惚とした表情。
『いじめ等という小さな問題は自分自身で解決するしかないのだ!自分の力で!』
それからの彼女は、相変わらず大人しくいじめられていたが、
『こんな奴らはいつでも始末する事ができる、この力があれば』
『私は今、あえてこいつらに好きな様にさせているのだ、こいつらはその為の道具だ』
『好きでやられているのだ、こうされるのが好きだから』
考えに説得力を持たせる"力"を得た事で彼女の考えはより深く、暗く歪んでいった。
そして翌年の春……学校の卒業と同時に、この"力"を持っていじめからも"卒業"した。
現世で扱う異能はそれほど強力なものではなく、"敵"の殺害には至らなかったが
敵である彼等が泣き叫び、許しを乞う姿を見て大分すっきりとしたし、
正義のヒーローは人間を殺したりはしないものだ。これでいい。
それからの彼女は生きていく事にも自信を持てる様になり、
ちょっと曲がってはいたが、本来の明るさを取り戻しそれなりに楽しい毎日を過ごしていた。