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「結局、キミに大したことはしてやれんかったな。すまん」 「構わねえよ。あんたの幻子兵装、結構イカしてたぜ」 召喚士の完全なる敗北。それにより戦いは一応の終焉を迎え、そこで彼――学が下した決断は、元の世界へと帰還することだった。 「……なあ、しつこいようやけど、本当にキミはそれでええんか? 確かにこの世界へ残る意義は薄いかもしれんが、他にも選択肢はある。今僕のコネが通じる子が『偽島』に行ってるみたいやから、同行者として連れていってもらえるよう頼んでもええんやで? 多少無茶な方法になるが、ヘヴンズゲートにも……」 「悪いな、おっさん。でも、もう決めたことなんだ」 この世界で、彼が学んだこと。それは『いかに自分が無力であることか』であった。この世界に来るまで、彼は自分のことを『その他大勢』だと思っていたし、これからもそんな存在でいいと思っていた。 だが、多くの世界、多くの人物を見て、彼は思った。自分のその力は、その矜持は――あまりに脆弱、あまりに貧弱。その他大勢を気取るなら、最初からこんな舞台に上がらなければよかったのだ。そして彼はこの地へ降り立ち、戦って、戦って、戦い抜いた。 今彼が得た力は、この世界から離れれば消える運命。それでも、記憶は消えない。この思いだけは、消させはしない。 「俺はまだまだ弱い。だから、俺も『最強』になってくるよ。俺の住む世界で」 「……君もか」 「ああ。確かに力じゃ大分劣るが、これで結構顔は広いんだ。最強への足がかりはそれなりにある――狗神を含む、知る人ぞ知る新旧『七堂塚四天王』、かつて工学科の『悪食』の暴走を食い止めた『12ナンバーズ』、そして今や七堂塚高校の伝説に数えられる体育大会・騎馬戦の覇者『Heaven\'s Seven』。ああ、大原さんに諸西さん等、トーナメントの決勝大会進出者もか」 彼らは既に何らかの形で実戦を経験している。どいつもこいつも、腕っ節の立つ人物ばかりだ。 「そいつら全部だ。全部俺が倒す、んで、俺が最強だ」 「……そ、か。ま、頑張りや」 無理だろう、と長月は思った。しかし、学の目は本気だった。止められはしない――あるいは、本当に彼は最強へと為り、ここへ戻ってくるのかもしれない。 「お、お迎えが来たな。んじゃ、またな」 来た時と同じ、暗く深い穴が彼を呑みこみ、消える。後に残るのは、ただの虚空である。 (行ってもうたな) 一つため息を吐き、後ろを振り返る。黒ずくめの男が、そこには立っていた。 「……お、大和クン。どや、『A-D-U』の調子は」 「悪くない。既に学院程度の敵の群れなら問題なく駆逐できるようになった」 彼が身にまとうのは、黒いコートにジーンズ、黒色のキャップ。それに加え、今はその下に黒い全身タイツのようなアンダーアーマーと、笑いの表情をかたどった仮面を顔に付けていた。 「しかし、これは――ヒトに使わせてもいいものなのか? 肉体だけではなく、精神にも同期する鎧……まるで召喚士達が語っていた『シンボリックウェポン』じゃないか」 「正直、精神云々とかその辺は事故も絡んでんねんけどな。大丈夫、エトランジェなら必ずや、その力に振るわれること無く戦うやろ。あとは適正な寄代さえあれば、な」 そう言って、長月は空を見上げた。今頃他の異邦人達も、帰還する者達が出ているはずだ。黒色の空に流星が走る。 「今回の戦いの行方、キミはどう見る?」 不意に、長月は大和へ訊いた。 「……行方も何も、彼女を倒さねば俺は元の世界へ帰れん。だから、倒す。それだけだ」 「そうやな。……ところで、召喚士達は先週の戦い以前にも一回、彼女とぶつかっとる」 学達が来る以前にも、召喚士達は異邦人達を率いて戦っていた。学達の世界からは『矢田 三郎』という男がこちらへ赴いていた、と記録には残っている。 「そこでも彼女は、この前の戦いと同じことをのたまったそうや。……曰く『私は一回刺されただけで死ぬ』」 「下らんブラフだな」 一蹴する大和を、長月はにやついた瞳で見た。 「果たしてそうやろうか? さらにその時、召喚士達の取り巻き達が召喚士を裏切り『彼女側』についたっちゅう記録もある。――何かあると思わんか」 「……下らん」 大和は踵を返し、その場を後にした。 「何や、ロマンが無いなあ。ま、僕は僕で、その辺のこと調べてみるとしよか」 そうして、異邦人達の戦いは終わり、彼らの戦いはここに始まる。エトランジェが消えた今、この世界を守るのは、誰なのか。 いつか、学がここへ帰ってくる時、それは明らかになるのだろう。 |
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