ビシュクの一週間

「…ビシュクとの稽古の後は
本当に疲れるけどな。

特に胸部と脚部が…。

体は鈍っていた訳ではないが、それでも
辛いといえば辛いな。

それとは…別の感情もある。
」

「…ないですよー、そんなのー。」

「ああ、おでんのおじさまに都合してもらって、動力のおでんが手に入ってよかったです。」

「ツクモガミ…？なんだかよく分からないですけど…まぁ、ちゃんと動いているし大丈夫かなーって。」

「ねー。やっぱりこれに耳が生えてたりしたら不気味ですよー。私だっていやですー。」

「わ、あのちょっと…。」

「魔石のやりくりが厳しいねぇ…。余った装備を貸してあげたい時もあるんだけども、うーん。」

「んー、魔力がないから駄目かもしんない。装備に含まれてる魔力を使うことは出来るんだけどねー。」

「あの屋台のは美味しいよねぇ。染みるワー。最近寒くなってきた気がするから余計にね。」

「無自覚…ねぇ。」

「えぇっ、そうなん！？…って私もその時は帰るんだっけか。ビシュクの世界ってどうゆう所なんだろ？」

「あーあーてすとてすと。
　ふぅ、ようやく声も元に戻りました。
　変化の道もなかなか難しいものですね。
　カモノハシの声帯は……もうお腹いっぱいです……」

「しし思春期の子供なら尚更もふもふ禁止ですっ！
　センサイな年頃なんですっ！
　そ、それにびしゅくさんだってそんな年の
　子供を持つには若すぎやしないですかっ」

「（腕から解放され）
　うぅ、素直に、ですか……。
　なんかこのカラダで素直になったら
　人間としての意識が猫に飲まれてしまいそうで……。
　元の魂がぼんやりとしか人間だった頃のことを
　覚えていないので……もしそうなったら
　自分が消えてしまうような気がして
　……少しだけ不安なんです」

「私の元の魂はきっと不安定だったんでしょうね。
　元の世界のことや本来の自分のことは
　ほとんど覚えてないけど……
　この依代……猫一匹手懐けられてないわけですし。
　……いつか『彼女』を倒して向こうに帰るときまでには
　どうにかしたいものです」

「（ふわりと抱きしめられて）
　ぅわ、び、びしゅくさん？！
　さ、さっきダメって言ったばっかりなのに……」

「……も、もぅ、びしゅくさんの抱きつき魔。
　ええ、無理はしないようにします。
　少しずつですが、息の抜き方も判ってきましたし
　あんまり根詰めても空回りするばっかりですしね」

「（過去の話をしながら微笑むビシュクに呆然としつつ）
　……ぉ、オブラートに包んでそれですか……。
　……そこまで劇的に変われるものなんですね。
　私が会えたのが今の優しいびしゅくさんでよかったです。
　……その昔のびしゅくさんに会っていたらと思うと
　正直ぞっとします……し、失礼かもしれませんが」

「（元の世界に戻る、という下りを耳にして）
　……召喚士から通達が来ましたね。
　……やっぱり、びしゅくさんも帰っちゃうんですか？」