ユディの一週間

「うむ。期待に応え続けられるよう、これからも精進するつもりだ。
」

「そちらも頑張ってくれ。」

「ええ。尤も、この場所では大概、戦事を中心とした
必要性に求められて調べ物をする事が多く、
個人的な探求心を満たす為の余暇自体を
取り辛い事が、目下の悩み事ではあるかしら」

「賊の足取りを追っているのは私達だけではないわ。
詳しくは話せないけれど、逃走先を数箇所に絞り、
既に先回りを開始した『審問官』も居る。

書物にも、図書館の『司書』達だけに
判別可能な追跡用の目印を施してある都合、
そう簡単には我々を振り切る事も出来はしない。
最悪『彼女』の手に書物が渡ったとしても、
黒衣の主が軍勢の助力が望めるわ。頼もしい限りよ」

「如何なるものでも、借り物は持ち主に返すのが原則。
この事変の決着を迎えれば我々が世界に留まる理由は
失われ、いずれは主によって送還される事になる筈。
この世界の在るべき姿が、異邦から喚び出された
我々の存在しない世界である以上、仕方の無い事ね」

「でも、黒衣の主…そしてこの世界律が、既に喚び込んだ
異邦の魂を留める事を拒まないのであればあるいは、
全てが終わった後でも、共存の道は残るのやも知れない。
そして『私達』自身が、それからをどう考えるのか…
それが何よりも重要な事なのではないかしら」

「貴女の心配事は、半分は的中せずに済んだわね。
今回のカナデ女史の豹変にもやはり、
大神官を名乗るあの男が糸を引いていたとの事よ。
尤も『彼女』との関与については未だ不明だけれど…。

信仰の持つ威光を借り、私欲に走る事を由とする
不遜な輩が相手であれば、私も徹底的に戦える。
それに…」

「二度までも同胞を傷付ける事など、私はもう御免だわ」

「ふう…助かるわ…。いやね、私の知り合いにはカモノハシが極端に好きな人とか嫌いな人とかが多いのよ。それで斬られそうになったりモフられそうになったりでここのところ忙しくって……」

「伝え聞くところによると、歌うカモノハシってのは相当厄介らしいわねー。いや、まさか歌におびえる日が来るとは思わなかったわ。
……ところで、この虫眼鏡ってマイクに見えなくもなくないかしら？」

「カモノハシ姿…潜入……ん？
先生。敵を欺くにはまず味方からの法則で行くと、欺いた結果味方から攻撃を食らいそうで怖いので潜入捜査は遠慮させていただきたいと思います。なんだかんだで前線で皆頑張ってるみたいだし…無駄なことしないで普通にしてろってことね、これは」