祖国――レージェントに戻った我が君と私は熱烈な歓迎を受けた。最初は王宮内の者達、翌日を待って民たちが。
　最も歓迎が荒っぽかったのは軍団長ケイオスなのは間違いない。「お待ちしておりました陛下！」から一瞬で何かを察し、形通りの挨拶を述べた後、笑顔で私の背中を全力で叩いた。あれは全力だった。間違いなく。衝撃と大きな音に紛れて

「後で顔を貸せ、コノエ」

　と言った声は怒りではない激しい感情が秘められていた。件の我が君は何も気づいておらず、そして自分の時を鑑みればこの後に一騒動あるだろう。三角の三重奏が。
　本物の想いを止められるとは思っていない。私は受けて立つとだけ返すつもりだ。
　勤務中の騎士隊たちも続々と加わったが帰還の日をごく内密に伝えていた成果だろう、ソルティは見張りの役目を与えられており最後の面通しになった。コノエ様ァぁあああああーーー！　という声で地団駄を踏む一芸は評価しよう。周りが面白い以外に役に立たないが。
　そこからは我が君には王国中の出来事を、私は騎士隊の業務を確認するため一度離れた。いつも通りに騎士隊が三人つき、私が担当するのは表によれば明日である。
　我ながら我慢をしないな、と他人事のように思った。







　何度でも言う。自分たちの関係から『偽の』とか『便宜上の』とか。そういう言葉が消えただけなのにこうにも違うものかと。
　一緒にいると欠けた何かが埋まるような気がして。離れるとなんとなく不安になってしまう。
　薬指の指輪を撫でる。いつだったか、最初に『恋人枠』を設けて求婚や既成事実を狙う輩を排除するために揃いで作ったもの。私は衣装留も兼ねて二つ、コノエは一つ。デザインは仕立屋に一任した。確か、衣装留になることとコノエの仕事内容で強度を重視した気がする。
　光の加減と角度で精緻な文様が浮かび上がるのはとても気に入っているし、好きなのだけれど。
　もっと指輪らしいものがいいなと思い始めてしまっている。

「仕立て屋を呼んで頂戴」

　意識してしまったら気が急いて、書簡にざっと目を通しながら命じてしまっていた。
カーラのための祠を作ること、ヴィンテの王宮就職用の手続き、アリジェの送還――――エルヴェアはメルンテーゼで別れた。彼女の目的は達成されたらしく『私も恋人のところへ帰らなきゃ』だそうだ。それでもやることは山ほどあるのに。
　国境付近のいつも通りの小競り合い報告、暗殺と毒殺の会合、順調な国内経済。普段と代わり映えしない報告だからといって、軽くなりすぎている。
　ああやっぱり、私はどこまでも小市民だと思うもので。

「……我が君？」

　コノエが寝ずの番をする日。待たせていた仕立屋を通すとさすがに彼も驚いていた。
　でも以心伝心とはいうもので。
　私たちは二つの仕立屋に重荷を背負わせる選択をしていたのだった。

　　　　　　男はそっと指輪に口づけた。