「あのさ、
　物凄い勢いで食べるものへってくんだけど。」
「分かりきってた事じゃない。
　自分の食べる分くらい確保しなさいよ？」
「いや、そのね。
　分かってるんだけどさ……」
「何よ。」
自分の分を確保して食べながら、
エモさんの勢いよく食べる様子をみていると、
不意にアルネスさんが微妙な顔をして、
当たり前の事を聞いてきた。
「なんていうか、
　私の分を積極的に狙ってくるのはなんでなんですかねぇ。」
「本人に聞いたら？」
しかも、何故私に聞くのか分からない内容。
なんで私に聞くのか。
だが、食べるのに一息ついて、
丁度聞いていたのだろう。
「たべれるところからたべるのはとうぜん。」
しっかりと返答を返してきた。
なるほど、
聞いてみれば至極納得のできる理由である。
さすが見る目あるわね。
エモさん。
「いやいや、間違ってるから！
　せめて横取りしないって選択肢はないの！？」
「な
「ないんだ！？」
まぁ、アルネスさん相手だし、
仕方ないわね、と、
ペルチェさんを撫でながら眺める。
ちょっと食事が豪勢なだけで、
いつもと変わらないやり取りだけど、
まぁ、
これくらいが私達には丁度いいのかもしれないと思いつつ、
なんとか必死にエモさんに、
自分の分を取られまいとするアルネスさんを助ける訳ではないが、
「ねぇ。エモさん。」
話しかけた。
「なに？」
食べる手は止めずに、首を傾げるその姿に、
私は言葉を続ける。
「これでお別れになるけど、
　よかったらこのまま一緒に来て、
　食べ歩きしない？
　丁度いいお店知ってるのよ。
　私が呼ぶから。」
「いく！
　あ、もちろんたべつくしていいんだよね？」
「もちろん。
　食べつくしても大丈夫な店を選ぶから問題ないわ。
　ああ、希望があるなら聞くけど……
　美味しければなんでもいいっていいそうね。」
「そのとおり。
　おいしいもたべものいーっぱいたべれればもんだいない。
　あ、それ、わたしの。
　たべちゃだめ。」
「いやいや、私のだよ！
　って……またとられたーーーーっ！」
やれやれ、それにしても、
諦めて後で私に作ってっていえばいいのに。
ま、本当に食べれなかったら後で夜食でも差し入れましょうか。
そんな感じで夜は更けていき、
やがて宴は終わり、
睡眠を経て夜が明ける。
いよいよ、別れの日がきたというわけだが、
エモさんは一緒にくるからさておくとして、
ペルチェさんとアルネスさんに別れの挨拶しないといけないわね。
まずは……ペルチェさんからかしら。

という訳で、ペルチェさんを後ろから抱き上げる。
「今日ももふもふねぇ。
　ペルチェさん。
　今日でお別れなんて寂しいわ。」
「突然抱き上げられたらびっくりするウサ。
　ペルチェも寂しいけど、
　お世話になる場所も、
　お友達も一杯いるから大丈夫ウサ。」
「そう、
　それじゃ、このまま浚う……
　というのはしなくても大丈夫そうね。」
「大丈夫ウサよ。
　でも、折角だから
　ゆっくり堪能して言って欲しいウサ！」
心行くまでペルチェさんの心地よさを堪能しつつ、
ペルチェさんも居場所をみつけたようでほっとした。
何事もなければ持ち帰るよていだったけど、
戻る場所があるのならば、
そちらの方がいいに決まっているし。
「癒されるわねぇ……」
まぁ、ペルチェさんを離すのは惜しい気はしないでもない。
ならばどうすればいいか。
――答えは単純、
つながりだけは失わないようにする。
これ以上の答えは無い。
そんなわけで――
「で、どこにお世話になるの？」
「タンポポ荘って所ウサ。
　だけど、終わったらいろんな所にいくみたいだから、
　会いたいと思っても見つけるのは難しいと思うウサ。」
「なるほどねぇ。
　それじゃあ――」
「？」
それじゃあ、
といった私に続く言葉がなんなのか分かりかねたのか、
小首を傾げて此方を振り向いて見上げるペルチェさんに、
私はにっこりと微笑んで、
「目印をつけておかないとね。
　いいかしら？
　暇があるときに会いに行きたいし、
　ペルチェさんに目印つけておけば、
　まず見つけられるわ。」
「！！
　じゃあ、目印があれば、
　いつでも会いにこれるウサ？」
「よっぽどの問題が無い限りはね。
　遊びにいこうと思えばいけるわよ。
　たまにもふもふさせて頂戴ね？」
「もちろんウサ！」
特に問題はなかったように喜ぶペルチェさんに、
さて、目印はどうしたものかと考える。
アップリケとかで縫い付けてもいいけど、
縫い付けるよりも何か洒落たものの方がいい気がする。
何かあったかしら？
と荷物を除くと、
小さなピンク色のポーチが１つと、
冗談半分で購入したピンク色のベルトがあったので、
折角だからその場で即興で肩にかけるかばんを作る事にした。
ピンク色のかばんはきっとペルチェさんをより可愛らしく、
飾ってくれるだろう。
加工に関しては、
そう難しい話ではなかったので、
問題なくすぐに済む。
後はポーチの方に少し細工をして、
私が位置をつかめるように。
まぁ、魔法は使えないけど、
霊の力を使って品物と縁を結べば、
後は勝手に霊が知らせてくれるってだけだけど。
異世界を感知できるのかといわれると、
霊の中にも異次元に関わる力をもつものがいるので、
そいつの力を借りるといった所である。
まぁ、さておき、
完成したものをペルチェさんにプレゼントすると、
ペルチェさんも喜んでくれたらしく、
「ありがとうウサ！
　似合ってるウサ〜？」
と可愛らしい事をいってきたので、
私はにっこり笑って、
「とっても似合ってるわよ。」
といってあげると、
「やったウサー！」
すっごく喜んでくれたので満足。
暫くペルチェさんを堪能して、
いよいよ、アルネスさんの元へと赴くことにした。

「という訳で、お別れだからきてあげたわよ。」
「なんで上から目線なんですかねぇ。
　いつもどおりだから気にしないけどさ。」
「なんていうか、
　この方がしっくりくるから？」
「ヒドイ！？」
とりあえず、いつものやりとりをして、
「そういえば、お礼をするっていってたわね。
　別れの前にきちんとお礼をするわ。
　じゃ、こっちにきて。」
「あ、ありがとー。
　……なんか嫌な予感がするんだけど……」
「別に罠なんてないわよ？」
何故か躊躇するアルネスさんの腕を掴んで引っ張り込む。
力ではアルネスさんの方が上だけど、
こういうのはタイミングと不意をつけるかどうか、
見事テントの中に引きずり込む事に成功する。
「ちょっ！？
　逃げたら駄目ですかねぇ……？」
「駄目よ。
　それじゃあ、
　脱いで。」
「ファッ！？」
突然の私の発言に、
逃げようとするアルネスさんだが、
逃がすはずもなく、
首根っこを掴んで引きずり戻す。
「別にとって喰いはしないわ。
　いいから脱いで、
　私の用意する服に着替えなさい。」
「あ、あー……
　そういう事か。
　大丈夫、オッケー。
　……本気でこれきるん？」
「着るのよ。」
「……絶対似合わないと思うんだけど……」
「そりゃそうでしょう。」
「あるぇ！？」
何を驚いてるのか、
自分が一番わかっていることだろうに。
まぁ、でもそれなら何がお礼に繋がるのか、
それが問題だが、
はっきりといってしまうと、
アルネスさんの素材は決して悪くはない、
むしろいいほうなのである。
何が問題かというと。
「まぁ、
　とりあえず着替えたけど絶対にあってないと思うんだけど。」
「じゃ、何があっても私がいいっていうまで目を閉じてくれる？
　目を開けると制裁するわ。」
「何それこわい。
　えーと、これでいいのかな？」
化粧っ気が全く無い上に、
手入れも丁寧にするタイプではないから、
こうやって、少し手入れと化粧をしてやると――
「物凄くくすぐったいんだけど……！」
「いいから我慢しなさい。」
「……ハイ。」
まぁ、大人しくなったアルネスさんに化粧を施した所で、
用意しておいた鏡を出して、
「はい、もう目を開けていいわよ。」
「あ。はーい。
　もういいんだね。
　えっと……」
用意された鏡を覗き込むアルネスさんが硬直する。
そして鏡を指差して、
「誰これ？」
などといってきたので、
「アルネスさん以外の誰がいるのよ。
　貴女よ貴女、
　ちなみに鏡に細工なんてしてないわよ。」
「えー、嘘だー、
　私ってもっと平凡な感じ……」
「単純に化粧っ気がなくて、
　手入れも十分じゃないだけでしょうに。
　大雑把にしか手入れしてないでしょ。」
「……」
「……」
「……ウン。」
「素直でよろしい。
　後で化粧のやり方とか、
　簡単な手入れのやり方おしえるからやりなさい。
　たまにはお洒落したい事もあるでしょうに。」
「助かります、ありがとうございますって……
　んー、化粧って凄いね。
　ここまでになるのか。
　よし……」
「下手な化粧は自滅に繋がるから、
　貴女に合う化粧のやり方はしっかり覚えて、
　言われたとおりにしなさい。」
「……」
「……」
よし、の後に繋がる言葉は大体分かっている。
あのアルネスさんの顔を見る限り、
私も頑張って自分なりの化粧をしようとしている顔だが、
何か結果的に酷い事になる未来がみえているので釘をさす。
当然の如く、
私の言葉は的中していたらしく、
盛大に目を逸らすアルネスさん。
「ソンナコトナイヨ？」
言い訳をしても、
余所見してる上にそんな片言では説得力なんてあるはずがなく、
「誤魔化しても無駄よ。
　まぁ、単純だから少し付き合ってもらうわよ。」
容赦なく叩き込む事にする。
まぁ、そこまで複雑な事は教えるつもりも無いし、
なんだかんだで難しくない事であれば覚えるのは早いから大丈夫だろう。
「拒否権は！」
「あると思ってるの？
　というか、
　他のかわいらしい服とかもきれるようになるわよ。」
「全力で頑張らせていただきたいと思いますッ！」
それにしても、
現金で素直というか、
色々と心配になるところもあるけど、
まぁ、アルネスさんだし上手くやるだろう。
今後の心配については気にしない事にした。
多分、
今の一番の問題は私に関する事だろうし。

そんな感じで、アルネスさんに化粧と手入れを叩き込んだ後、
ついにお別れの時が訪れる。
アルネスさんはまだドレスアップ状態だが、
まぁ、たまには良いだろう。
「さて、それじゃ、そろそろ時間ね。
　２人とも元気でね。
　エモさんはまた後で。」
「またあとで。」
「ばいばいウサ、また今度ウサ！」
「うん、またね。
　何か縁があったら……
　うん、お手柔らかにお願い。」
お別れの言葉を告げて、
手を振って元の世界への扉を開き、
元の世界へと帰る。
元の世界へ返ってからもやる事は色々あれど、
これにてこの世界での私達の物語はおしまい。
さっぱりしていて、
面白みの無い淡白な別れ方かもしれないけれど、
物事の終わりなんていつだってそんなもの。
綺麗な終わり方でいいと思う。
――そうして、
私は世界と皆と別れて、
私の在るべき世界へと戻ってくる。
来た時と同じ場所へと。
向こうでの６９日は、
こちらの世界では、
ほんの２，３週間。
思ったよりも時間が経過しているような、
あまり経過して無いような感じだが、
これにて今回の私の物語はおしまい。
――楽しい旅だったと思う。
懐かしい人にもあえて、
本当に。
また、縁があれば世界を渡り、
出会えたらいいけど、
そればっかりは分からないか。
――ゆるりとこれからを楽しむとしましょう。
何が待ちうけ、
何が起こるかわからないからこそ面白い。
それじゃあ、また会う日まで、
さようなら。

「――ま、そんな感じで楽しかったわ。
　え？
　今、私何してるかって？
　折角の休みだもの。
　ちょっとした旅行してるわ。
　どんな旅？
　それはね……」
「――みつきー、
　もうごはんないって。
　つぎいこ？」
「はいはい。分かったわ。
　ああ、こっちの話よ。
　ちょっとした古い知り合いとね。
　全国津々浦々食い倒れの旅をね。
　お金かからないように大食いの店とか、
　悪質な店を中心にめぐっているわ。
　――それじゃ、きるわね。
　ええ、大丈夫。
　危ない事なんて何も無いわ。
　じゃあ、また。
　――で、いくらなのかしら？」
領収書を受け取って眺める。
まぁ、確かにエモさんが散々飲み食いしたから、
結構な金額になるのはわかってはいたが、
それにしても高すぎる。
「――あら、ちょっと高すぎない？」
「そんな事……」
「いいえ、だって本来のこれの価格は……」
「お客さん文句があるなら……」
文句をいう私に店主が指を鳴らすと、
大男達が私達を囲む。
「話が早くて助かるわ。エモさん。」
「ん。」
それに迎え撃つ私達。
まだまだ世界は退屈はない。
面白い事は数多ある。
ならば私は友と共に、。
楽しませてもらうとしましょう。
盛大に……、ね？

荷造りオッケー

抱っこされながら喋った。