愛玩的（?）魔物達を一蹴した私達は傷を癒す為に偶然近場で見つけた湖の畔に来ていました。
熊猫の魔物による笹攻撃で出血していた血を湖の水で綺麗に洗い流します。

水で濡らした綺麗な布で血塗れ状態のアラヤちゃんの血を綺麗に拭いてあげながら
恥ずかしそうにしてるアラヤちゃんと話をしていきます。

先程前の戦闘が終わって、二人共に出血で全身至る所が血塗れだったので私もアラヤちゃんもその時は驚いてました。
私に至っては全身血塗れのアラヤちゃんを見てオロオロと狼狽えてしまい、結局アラヤちゃんに宥められて今に至ります。

ちなみに血塗れな私達ですが、見た目以上に傷は全然大した事無かったりします。
というより、傷自体は既に治癒魔術で塞がって綺麗に無くなってます。
ただお互いに血を少し流したせいで、若干貧血みたいな感じに身体が気だるく感じます。

湖までの道中で金髪で軟派系な男性に遭遇しました。
正直ニヤニヤしてて気持ち悪かったです。

そんな如何でもいい事は置いといて･･･

私はゴソゴソとポーチからある物を取り出します。

それは少し前に入手したフラワーチャームに私の持っているネクターの花びらと
この魔力を帯びた蒼い翼の一番良い羽根を使って作り上げた簡素だけどそこそこ綺麗な手製のブレスレット。

それをポーチから取り出すと、少し照れ恥ずかしそうに私はアラヤちゃんに差し出します。

突然の事でアラヤちゃんは少し戸惑ってましたが、
すぐに頬を少し赤くして照れながら「ありがとう」とお礼を言ってブレスレットを受け取ってくれました。

そして受け取ったブレスレットを腕につけると、付けた腕のブレスレットをアラヤちゃんはぼんやり眺めてました。
時折口元が緩んでる所が伺えたので、どうやら気にいってもらえたみたいでよかったです。

十分な休憩が取れたのでそろそろ出発しようと思い、私はアラヤちゃんに声を掛けようと･･･

[──日記はここで途切れている──]


　＊　＊


それは確定された未来だったのだろうか。

蒼羽が彼女に声を掛けようと近づいたその時。
お互いに所持するネクターの花びらから急な強烈な魔力の波動が流れ始めると、そのネクターの花びらは眩しい光を放ち始めた。

唐突な事に顔を合わせて戸惑う二人。
そこへネクターの光に引き寄せられてか、数匹の魔物達が姿を現し二人に向かって襲い掛かっていく。

光を放つネクターの花びらを気掛かりに思いながらも、襲い掛かってくる目の前の敵を退くべく二人は術式を展開する。

息の合った二人の戦いに魔物達は翻弄し倒されていく。
そして二人が最後の魔物を倒したその時。

ネクターの花びらが今までに無い強く眩しい光を発した──刹那。凄まじい大爆発を引き起こした。

爆心地の中心に居た二人は巻き込まれ、真っ白の煙と共に二人はその世界から姿を消失する。

･･････

蒼羽が目を覚ました時に最初に感じたのは浮遊感。
次に左右上下に首を動かし周囲を確認する。視界に入るのは多数の景色・風景が極彩に湾曲し歪む光景。

そんな不思議な空間の中で、蒼羽はふわふわと漂っていた。
ここは一体何処だろうと蒼羽が不思議に思っていると人影を一つ見つける。

それは蒼羽と同じく爆発に巻き込まれたアラヤだった。
遠目で確認する限りではあんな爆発に巻き込まれたのに、出血や外傷は見受けられず服も綺麗なままだ。

蒼羽が彼女に向かって叫ぶと、彼女はぼんやりとした瞳だけを蒼羽の方へ向ける。

アラヤの意識はあるみたいだ。
が、瞳を蒼羽の方へ向けるだけで身体の方は以前動いていない。

どうやら爆発のショックか。アラヤは身体を動かせなくなっているようだ。

浮遊している身体を動かして、手で掻き分ける様にして蒼羽は彼女の方へ向かおうとする。
しかし蒼羽の体は彼女の方へ進むどころか、まるで何かに引っ張られていく様に蒼羽とアラヤの距離はゆっくりと離れていく。

段々と遠くなっていくアラヤの姿に、蒼羽は泣きじゃくりながら必死に彼女の名を呼び続ける。

「まだ仲良くなりたいのに」

「まだ約束守れてないのに」

引き千切れる位に手を伸ばす蒼羽。
しかし蒼羽の思いは届かず、とうとうアラヤの姿は朧げとなって消えていった。

消えてしまったアラヤの姿に、蒼羽は悲しみと虚無感に打ちひしがれ涙を流す。

暫く泣いてると、蒼羽は段々と自分の意識は薄れていく感覚を感じる。
蒼羽は絶対に眠ってはいけないと、必死に意識が薄まらない様に抵抗する。

ここで意識を手放してはいけないと、意識を手放してしまうと大事な物まで失ってしまうと。

しかしその抵抗も虚しく･･･蒼羽の意識はゆっくりとまどろみの闇へと落ちていく。

「約束、守れなくて、ごめん、ね･･･」


･････････ ･ ･ ･　･　･　 ･


『──ごめんね、本当はこんな事をしたくはないのだけど。』

『貴女が瘴気を使えるまま次の世界に行くのは大変だから･･･少しだけ記憶を封印します。』

『本当にごめんなさい。これから先どうか貴女の進むべき道に幸が有らん事を･･･。』


　＊　＊　＊

気が付くと、そこは見知らぬ場所でした。
横たわってた身体を起こして周囲を見渡して確認します。

軽く周囲を見渡した所。ここは明るい森の中で、私は大木に空いた空洞の中に居ました。

頭がズキズキする。
私が何でこんな場所で寝ていたのか思い出そうにも上手く思い出せない。

痛む頭を抑えながら、自分の憶えてる範囲の事を思い出します。

私の名前は蒼羽。
少し前までは農場で小作奴隷として働いていました。

でも農場での過酷な生活が嫌になって、それで私は･･･

あの農場から上手く逃げ出せれたからといって、幾ら何でも気が抜けすぎと自分を反省させる。
寝てる間に野生動物や野人に見つからなくてよかったと、運の良かった事に感謝します。

自分が無事だった事に少し安堵すると、お腹からぐぅ〜と虫の音が鳴ります。
そういえば逃げる事で必死で昨日は何も食べてない事を思い出します。

何か食べ物を無いものかと周囲を見渡すと、自分のすぐ横に何かが入った小さな麻袋を見つけました。

ごそごそと袋の中に手を入れて中の物を取り出すと、幾つかの見覚えのある道具類が出てきました。
小さなナイフに火打石、自分用の木製の食器にそれから･･･

幾つかの道具類の中にあった指だけの手袋を見つけて、私は用途の分からないそれを手に取ってまじまじと観察します。

本来なら一見してゴミかなと思ってしまう所ですが、何故か私はそれをゴミとは思えず。
むしろそれはとても大切な物に思えてしまい、私は大事そうにその手袋をぎゅっと胸の内に抱きます。

この手袋は重要な物と決めた私はその手袋を大事に小さな麻袋の中へ戻します。

食べ物が入ってなくて少し残念でしたが、大事な手袋が入ってたこの麻袋に気付けてよかったと思います。
とはいってもお腹の虫は以前鳴き続けるままなので、何か食べ物が無いか探しにいく必要があります。

小さな麻袋を手に抱えながら立ち上がると、軽く服を掃った後に食べ物を探しに行こうとします。

私は自分に元気に声を上げて気合を入れると、この"新たな世界"での生活を始めるべく歩み始めるのでした。