―――術式は確かめた。
触媒にするものも揃えた。

ただ一つ、心残りは……
一人の女性の、寂しそうな笑顔だけだった。





今頃、ひとりで戦っているのだろうか。
自分を守るために。この世界を守るために。


きっと彼女なら守り切るだろう。
かつて自分が、自分の世界を守り切ったように。



もう会う機会はないかもしれない。
最後が、満面の笑みではなかったことが、少し悲しい。
……自業自得だ。
俺が悲しませてしまったのだから。








「―――帰るぞ、ピンク」
「うまくいくポかね〜」
「……うまくやるんだよ」


お別れだ、メルンテーゼ。

片手を差し出して握手を求めた。

横になっていたため、部屋着のような格好のまま、
クロムに会うことを恥ずかしく感じたようだ。
赤い顔でそそくさと上着を羽織る。

貴方は右往左往しているかもしれない。
フリント領にいて、祭りをぼうっとながめているかもしれない。
その時間は、ズン、という音に引き裂かれる。

遠くからでも見える、巨大なばけもの。
子供が作った泥人形のようなかたち。
山よりも巨大なそれが遠くに見える。
そして、魔法を知るものならば誰もわかるような、すさまじい魔力を同じ場所に感じる。

今から走っても、馬で駆けても、間に合わないだろう。



ただ、空間移動ができるならば話は別だ――