元の世界へのゲートが開かれ，帰ることとなる。
まだ居たいと，しかし居ることは叶わぬと。
不完全燃焼の気持ちは燻ったままであった。

任はすでに終了した。

にぎやかなパーティも解散する。
会話を楽しみ，やりとりとのあった友人とも言えるであろう者たちと別れる。
途中から行くことができなくなった２つの湯屋も。
もはや，行けるのかも怪しいところとなっている。

手に残るのは，この世界で手にしたモノ。
途中から居なくなってしまった，付き合いのあった者の形見。
戦いで手に入れた，様々な鉱石や木々など。
作ってもらった，装備など。

そして，記憶が残っている。


「楽しい時間は早く過ぎるというが…これ程までか。」

別れはいつになっても慣れることは無い。
クロカネは特に別れを経験しておらず，何かこみ上げるものを胸の奥に感じた。

「これが，寂しさ…か。」

知りたい感情のひとつではあったが，知ったとなると後悔もでる。
これ程までに痛いのか，と。
もっと会話を，交流を楽しめばよかったと思ってしまった。
心残りが多すぎる。

知らずのウチに，戯れに作った玉鋼製のキセルをくわえていた。
タバコを嗜むわけでもないので，ただくわえているだけだが…
無性にすいたくなった。吸うことはしないが。

「何ヲため息ナんてツいてルんだイ？」

スマホから白い何かが流れるように出，それは形を整えてシロと成る。
まだ感情が乏しい彼は，きょとんとした様子でクロカネを見上げた。

「寂しい…うむ，別れを惜しんでいる。
　俺は寂しいのだよ，シロ。」
「ふぅン…わかンないナあ…」
「何れ…何れ，判るじゃろうよ。手に入れるべき感情じゃな…後悔はするじゃろうが。」
「ワけがワからナいよ，クロカネ…」

うーんと唸るシロを横目に，小さく…
本当に小さく，クロカネは苦笑交じりに微笑んだ。
そして気づく。
こんな表情も出来るのかと。
あの姉のように，感情を表せたのかと。
乏しいと言われていた，表情を…出せたのかと。

それだけでも，多大な感謝をと想う。
この世界へ来たのは，もっと別の理由であったのだが。


こうやって，別に得られたものもあったと。
クロカネは，その縁に感謝した。





縁は紡がれる。
どこかで切れたとしても，細く頼りなくとも確かな縁も残る。
それはいずれ，拾い上げられて，縁を再認した時に，より強くなるのだ。

さあ，世界を渡ろう。
まだ見ぬ縁を紡ぐために。

兄弟を食らい，縁に絡まった姉と往くために。
母を殺され，呪うことしか出来なくなった兄弟との縁を紡ぎ直すために。


往こう，と声が聞こえた気がした。
いってらっしゃい，という母の声が聞こえた気がした。

すこしだけ、時があいて。

珍しく少しだけ微笑んだ。

　

バスタオル…？

最後までこんなのりで、ゆるゆると。お相手有難うございました。

果たして妖狐に老後はあるのだろうか？

ガタッ！っと音がしそうなほどに立ち上がった！興味津々のようだ…！

そう言って刀妖の後ろにつく、親子狐…

その夜、妖怪屋敷でとても楽しいどんちゃん騒ぎが行われたのは、また別の話…