楽しい時間はいつだって早く流れる。
それは時間の概念が緩い内面世界であっても同様だ。

名残惜しい気持ちに区切りをつけ、僕は立ち上がる。

そう言って胸を張るシア。
頼もしい妹である。

レラの言葉に力強く頷く。
彼女の言葉の意味、そして僕がこれからやろうとしている事の意味はこの場にいる全員が理解している。
だからこそここでは余計な言葉はいらない。

こうして僕達は『空白』との境界を後にし、もう一つの目的地に向かった。




・〜・〜・〜・〜・




レラ達と別れてどれくらい歩いただろうか。
内面世界での距離感は近いようで遠く、遠いようで近い。

時間の感覚もあやふやになりそうになった頃、僕達はその場所に辿りついた。

先程の境界と同じく、空間そのものが隠蔽されているだろう場所。
僕は『千里眼』と『慧眼』を開放し、その隠蔽を剥ぎ取る。


現れた空間の真の姿。
そこには淡い光を放つ青い球体が浮かんでいた。
他には何もない。

『慧眼』はこの球体が何であるのかを程なく僕に知らせてくれた。

少し躊躇ったのちに掛けた言葉にシアはしっかりと答える。
僕がこれからやろうとしているのは転生システムの停止、もしくは破壊に類する。
つまり、転生システムと融合したシアは……ここまでだ。

今ここにいる私はその最後のワガママ……

……本当に僕にはもったいないくらいの最高の妹だ。
そんな彼女に弱音を吐くわけにはいかない。
僕が言える言葉は一つだけ。

僕の言葉にシアは満面の笑顔で答える。
そしてその笑顔を絶対に忘れない様に心に留め、僕は振り返る。

その視線の先には青い球体――『慧眼』はそれを『転生体の楔』だと教えてくれた。
これが最初の僕から今の僕に連なる全てを支えていたのだ。

僕は『スートルートの鍵』を手に取り、その先を『楔』に向ける。

ふと、背中にぬくもりを感じる。

シアは後ろから僕を抱きしめながらそう言った。

その表情は見えない、いや見てはいけない。

ある日、僕は夢を見た。

繋ぎとめられた魂の連鎖。

縛られた運命。

繰り返される時間。

鎖は複雑に絡み、そして縛られた少年は眠り続ける。



その時僕は僕のやるべき事を見つけた。

繋ぎとめられた魂の解放。

縛られた運命の変革。

繰り返される時間の破壊。

複雑に絡み合う鎖からあの少年を解き放つために。



今ここに『再現』する――62人目、レスティ＝スートルートが遺した『解放の鍵』を




――カチ。



何かの音が響いた気がした。
その音とともに、手の中の『鍵』の変化を感じた。
見た目は何も変わらない。
しかし、今手の中にあるそれから今までにない力を感じた。

僕は『鍵』を『楔』に突き刺す。
思いの外抵抗はなく、『鍵』は『楔』に吸い込まれるように入っていった。
そして――



――カチャン。



文字通り開錠したような音が辺りに響く。
その音と共に、『楔』が放っていた淡い光が消失していき……最後にほのかな余韻を残して光は完全に消えた。



……そして、背中に感じるぬくもりも居なくなっていた。

そう、これで――。

――――……Pi。








――Change Language, request...








――言語変更完了、確認どうぞ。








――転生システムの破損を確認、原因不明。



――解析……転生者と断定、早急に対策の検討が必要。



――提案に了承します。





――システムの一時凍結を実施します








凍結








凍結　　凍結　　凍結








　　　　　凍結　　　凍結　　　　　凍結　　　　　　凍結　　　　　凍結



凍結　　　凍結　　　　　凍結　　　　　　凍結　　　　　凍結

















そのアラートと共に、黒い霧のようなものがそこら中に溢れてきた。
そこから感じるのは明らかな敵意、その全てが僕に向いている。


そう、ここからが本番だ。