「気を取り直して３つ目。
　十三階段だね。」
「……細かい話はいいわ。」
「行った方が解説はやいですしね。」
「？
　２人ともどうしたんだ？
　突然。」
首を傾げる睦美さんと咲良さんに、
応えずその場所へと向かう。
そして、件の階段をみて、
私と真白さんは顔を見合わせて頷いた。
「やっぱり、ね。」
「？？？
　一体何の話なんだ？」
「いえ、その……
　空間の歪みが出来てるんですよ。
　原因は色々ありますけど、
　踏み入れると異次元に迷い込む類の代物ですね。
　霊がいるスポットだと割りとあるんですよね。
　厄介なだけなので触れないほうがいいです。
　面白みも無いです。」
「じゃあ、四つ目いった方がいいね……
　四つ目は――」

「ここ、ここ。
　美術室！」
「……中のもの全部撤去されてるんじゃない？」
「だと思うんだけど……
　美術室の片隅にいつのまにか真っ黒い絵がおかれてて、
　その絵をずっとみていると、
　世にもおぞましいものが透けてみえるとか。
　どうも、自分の血を塗りたくって絵を描き、
　死んだ教師の怨念が……！」
「へぇ。どれどれ……
　お？
　なんか奥に白い布のかけられた……あれかな？」
咲良さんの説明も半ばに、
睦美さんは遠慮なく中に入って中を照らした。
早速みつけたらしく、
私も覗き込むと、えらく禍々しい代物がそこにあった。
とはいっても……
「“呪いの物品”ね。」
「ですねー。」
「呪いの物品……？」
「まぁ、言葉通りの品物ですよ。
　怨念がこもっているものは、
　更に他者の怨念を受けて、
　そ持ち主や触れた相手に対して不幸を運ぶがあるものへと
　変貌していくんです。
　そして、その呪いは中々解けるものではありません。
　それが呪いの物品です。」
「じゃあ触れないほうがいいのかな？」
視線が白い布へと集中する。
私は意に介さず近くによって……
白い布をはらって絵をみた。
確かに黒い絵。しかもどす黒い。
じっと見ないでも、そこに描かれた地獄は見える。
が。
「あんまり見ていて気分がいいものではないわね。
　ほら。
　見えた？じゃ、次行きましょう。」
見ただけでは呪いは発動しないだろうし、
さらっと皆に見せて白い布を被せ、
次へと移動させる。
ちなみに皆の反応は、
怖いっていうかキモイだった。

「で、次は五つ目だっけ？」
「五つ目はですね。」
「ちょいまち。
　……破ァッ！」
気合と共に特殊警棒を伸ばし一閃させる。
それにあわせるようにぽとりと何かがおちた。
「……痛……！
　乱暴な……！」
澄んだ女の声がおちた物から聞こえる。
懐中電灯で照らしてみると、
日本人形のようだった。
「……五つ目ってこれかい？
　いや、思わず叩き落したけど、
　多分普通に視界にいれてたら怖かったね……」
「人形って不気味な所ありますもんね。
　可愛くて綺麗である反面。」
「……ああ、そっか。
　人形だから物理で叩き落せるんだ……
　霊的なものって全部通用しないと思ってたけど……」
「実はそうでもないことも多いのよね。
　何かに憑いているって割とあるから。」
そんな人形のことそっちのけで、
しゃべる私達に、
「ちょっと！？
　無視って酷くないかしら！？」
あまりにもあんまりな対応に、
人形さんが切れた。
「なんていうか、
　反応みると怖いよりも可愛らしく感じるな。」
「それ、しょっぱな台無しにしてくれたからじゃない！
　全く……はぁ、なんか気がそがれたわ……
　私帰る……」
「ゆっくりしていったらどうかしら？」
　嫌よ。
　じゃあね。」
そんな切れた様子にも動じない私達に、
怒りを通り越してがっくりと力をなくしたように、
姿を消した。
「五つ目は廊下を歩く市松人形だったんだけど……
　……
　帰っちゃったね。
　うん。
　ああ、やって人を驚かしながら、
　時には驚かした相手の
　大切なものをとっていくとかいわれてるんだけど……」
「ああ、確かに大切なものをとっていったわね。」
「はい？
　何かとられましたか？」
「私達の恐怖心とヒロインの座？」
『あー……』
全員からの納得が得られたけど、
仕方ない事だと思う。
うん。

「花子さんは最後を飾って貰うとして……
　六つ目はここです。」
『……。』
教室の一つに到着した私達が見たものは……
「だからさー。聞いてる？」
「聞いてる聞いてる。
　けど、態々俺の所に愚痴りにこなくてもさー。」
「だって！
　一番愚痴りやすいもの！
　憑き物同士じゃない！」
「いや、まぁ、そりゃあ俺も憑き物だけどさ。
　……あっ……」
「何よ？
　……あっ……」
どうやらやっと気づいたようだ。
人形さんが六番目の怪異の人と喋っていた。
人というには語弊はあるかもしれない。
だってそれは……
「教室で勉強する二宮金次郎像ですね。」
『……』
また微妙なラインナップである。
実際は怖いんだろうけど……
「私さ、確実にホラーに耐性できてる気がするわ。」
「奇遇な事に、私もです。」
最早睦美さんも咲良さんもなれたもので、
全然怖がっていない。
「どうやら私達の肝試しは早くも終了ね。」
「ですねー。
　良かったというか残念というか……」
生暖かい目で人形と像をみる。
金次郎像の方はもう諦めたらしい。
「期待にそえなくてすまない。
　いや、まさかこんなタイミングとは。」
「あ、諦めたらそこで終わりよ！？」
「いや、どーすんのさ。
　流石にこの空気で恐怖とか……」
「ぐぬぬぬ……」
人形さんの方も諦めきれないようだが、
流石に形勢不利なのは分かっていたらしく……
「私達の負けよ、もー……
　かえって！
　いいから帰って！
　恥ずかしいから！」
諦めた。
私達とお互いの顔を見合わせて一つ頷くと、
その場を後にした。
……いや、まぁ、人の恋路の邪魔はしたくないし。
ええ。

「という訳でついてに最後ね。」
「ええ。
　ここの手前から３回ずつ叩いていき、
　３つ目の扉を３回叩いて花子さん遊びましょっていうと……」
「でる、か。
　よし。私がやろう。」
「睦美さん頑張って！」
最後の花子さんに関しては、
睦美さんが何かやる気のようなので、
息を飲んで見守る事にした。
一つ、
また一つと扉を叩き、
本命の扉を叩いて
「はーなこさんっあそびましょっ。」
そういった矢先だった。
「はーあーいー♪」
「わきゃぁ！」
咲良さんが奇妙な声をあげた。
そういえば花子さんのこたえる声も咲良さんの方からと思って、
咲良さんをみると、
どうやら何か背負っているよう。
あわてて睦美さんが咲良さんを照らすと、
赤い服の女の子が咲良さんに背負われていた。
「きゃーっきゃーっ！」
しかも、
女の子はピンポイントで咲良さんに息を吹きかけたりして、
おちょくっているらしく、
思いっきりどつぼにはまって混乱している咲良さんは、
悲鳴をあげるばかり。
まぁ、流石に収拾がつかないので。
「真白さん。」
「はい、分かりました。」
真白さんに女の子の首ねっこ引っつかんで貰って引き剥がしてもらった。
「ほら、もう大丈夫だから落ち着きなさい。」
「きゃーっ……って……」
「……」
落ち着くように言うと、
どうやら、
女の子が剥がされたのがわかって、
安堵する咲良さん。
対象的に、
完全にかやの外で睦美さんは呆然としていた。
「……離して欲しいんだけど。」
「離していいですか？」
「いいんじゃない？」
まぁ、ともあれ、咲良さんが落ち着いて、
場が静まると、
花子さんが流石に首根っこをつかまれた状態が落ち着かなくなったらしく、
そういったので、
快諾すると、
真白さんは大人しく花子さんを地面へとおろした。
「ちょっとくらい驚かせてあげようと思ったんだけど、
　驚いた？
　ねぇ、驚いた？」
「びっくりってレベルじゃないくらい驚いたよ……」
「いや、
　まさかそっちに出るとは思わなかった……」
「それなら良かった。
　あんまり怖さがないのも面白みがないし、
　私に関しては有名すぎてどうにもやりづらくてね。
　最後の最後くらいびっくりさせてやろうと思って。
　……という訳で花子よ。
　後はこの学校の最後を看取るのが未練って所で、
　踏みとどまってるだけで、
　大きな力とかはもう残ってないけどね。」
花子さんなりの歓迎だったようで、
何よりだと思う。
「これにて七不思議めぐりもおわりだし、
　丁度いい締めだったんじゃないかしら？」
「だな、これはこれで悪くない。
　いや、思ったより怖くない肝試しだったような気が……」
「……いやいや、
　普通ならそれでもそれなりに怖かったと思うけど。
　貴方達の場合、
　もっと怖い存在が傍にいるし、
　貴方達は霊の存在を知っているでしょう？
　怖い、と思う一番の要因は、
　未知に起因する事が多いわけで……
　なんていうか、ねぇ？」
「いわれとみれば確かに……」
「まぁ、魅月とつきあうのが、
　一番のホラーっちゃホラーか……」
じとーっとした目で、
花子さんに加えて睦美さんと咲良さんもみてくるが、
「あら、でも……
　こういった風情は私じゃつくれないもの。
　それに危険すぎる場所というのはあるから、
　用心棒は必要よ。
　私は何も悪く無いわ。」
と、別段気にする事もなく、
どこ吹く風のようにさらりと私は答える。
「まぁ、それは確かにね。
　命の危険を感じると恐怖は煽られる事が多いけど、
　それで本当に命を落とすこともある。
　こちら側はそういう所だもの。
　決して甘くみてはいけないし、
　安全に怪異を楽しむなら、
　そういった人間の介入は必須ね
　……
　こちら側としては迷惑な話っていった方がいいの？
　これ？」
「別に危害を加えにきたわけじゃないし、
　何か壊した訳でもないから気にしなくていいんじゃないかしら？
　話し相手がきた程度に考えたら？」
「なるほど、確かにねぇ。
　あーあ……
　でも、ちょっと残念かも？
　もし貴方達がいなかったら、
　もうちょっと怖がらせて、
　軽い悪戯くらいは考えてたんだけどなぁ。」
「私達って私も含まれてます……？」
「当たり前じゃない。
　あなたって此方側でしょう？
　含まれてるに決まってるわ。」
そんな様子にさらりと普通に返答してくるあたり、
ここの花子さんも割といい性格をしているらしい。
「……花子さんってもうちょっと子供っぽいと……」
「他の花子さんは知らないけれど、
　残念ね。
　ここの花子さんはおませな女の子なので、
　ちょっと大人びた態度をとるわ。」
「自分でいっちゃうんだ、それ……」
「まぁ、他に言う人もないしね。
　ま、ゆっくり何かして遊びたいけど……」
「特に何ももってきてないしなー……
　もってくればよかったかな？」
花子さんのイメージが崩れて微妙な表情を浮かべる咲良さんと、
花子さんのやり取りを見つつ、
不意に睦美さんが
思いついた言葉を聴いて、
何かなかったかなと探る。
それをみていたのだろう。
「あれ、ひょっとして魅月さん、
　何かもってるんですか……？」
真白さんに見つける前に見つかってしまった。
と、いわれても……
「ウノくらいしか持ってきて無いわよ？」
「……なんでもってきてるんだよ！？」
はい、これ、とポケットから出したウノを見せると、
睦美さんに突っ込まれた。
どうして、といわれても……
遊び道具の一つや二つくらい携帯しておくものだと思うけど、
としか答えようが無いが。
ともあれ、
結局その後朝までウノ大会となった。
……
花子さんは初心者の割に結構つよく、
睦美さんが結局一番弱かった。
……頭を少し使う系は基本的に弱いのよね、
睦美さん。

「とまぁ、そんなわけで肝試しは終わりだけど、
　どうだったかしら？」
「それなりに楽しめましたよ。」
「思っていたのとは違うけど、
　うん、楽しめた。」
「まー、思ってたのは、
　お化け屋敷とか、
　ホラー関係のお話聞いたり、
　ゲームやったりしたほうがよさそうなのも分かったな。」
帰りの車の中で今回の肝試しの感想を聞いてみると、
中々好評だったらしく、
またやってみてもいいかもしれない。
……怪奇現象冷やかし隊みたいな感じになってるけど。
「しっかし、また、壊される前にあそこにもう一度いきたいなぁ。
　折角仲良くなったんだし。」
「壊された後でも大丈夫よ？」
『え？』
「私がいるもの。
　呼べるわよ？」
「身も蓋もねぇな！？」
「さすがだね……！」
そんな馬鹿な話をしながら、
私はニヤリと笑う。
ああ、真白さんも気づいてないようね。
気づいたのは私だけかしら？
「ところで、気づいてる？」
「？何がだ？」
「え？忘れ物？」
「え、大変それなら取りに戻らないと……」
ああ、やっぱり気づいていないのか。
じゃあ、しっかりはっきり伝えてあげましょう。
私が何に気づいたのかをしっかりと……ね。
「今、車の中に５人いるって事に、よ。」

おいてけぼりされて鳴いてる。

朔位の置き土産。
この世界に存在する権利と、いつもの有機物で作る傀儡体で猫実体化。

傀儡といっても疑似とかゴーレムとかってレベルを超え、もう本物の猫の体と言っても遜色なく。
葛築を戻すための技術を 事前に実験で使ってみた 応用して猫を助けたのかもしれない。