■A far place is seen...

「レシュまで来るだなんて……何でまたこんな事になってるやら。レフィ様……」

「えぇ、許可を出したのは私（わたくし）ですわ。シェリィだけ知己に挨拶が出来て、クレシュミエント……レシュの方に許可をしないのは可哀想でしょう？　どうしても挨拶をしたい存在が居ると、嘆願がありましたのよ」

「それに……以前の件で行方を見失ったかの存在を探す約束もしました」


淡々とした様子で語る少女の姿に、乱雑に前髪をかき上げつつぶつぶつ言っていたシェリィも口を閉じる。

そう、ジェイドという名の少年に“神様の国”へ帰るのか、なんて言われたが、もう暫く滞在許可をもぎとる気は満々だったりする。
幸い、少年に興味を持ったレフィの方ももう少しの滞在を希望しているようだ。
それこそ百年単位で外の世界へ分身だろうが何だろうが出る機会の無かった方を、もう少し自由にさせて差し上げたい気持ちもあった。
知己の者を探し出して貰える程度には備えられている“遠見”能力に助けられているのもある。

……自分のために少し封印を緩くして貰ってるのも承知だった。
本当の意味で……この騒動が終わったら会いに行くと誓っていた存在が居る。


「それにしても……ミドルネームを授与した折にも告げましたけれど、本当にシェリィは変わりましたのね」

「……何を今更改めて仰ってるんですか。いえ確かにここの世界で出会った存在の影響で変わった部分も多くあるとは思うので、それは否定出来ませんが」

「ふふふ。そんなものですわね。本人には分からないものですわ。本当に親にでもなったような心境ですわね……」

「……は？　レフィ様、今度は本気で仰ってる事が全く分からないんですが。いえ一族の“長”たるレフィ様はある意味私や皆にとっての親のようなものといえばそうなのですが」


くすくすと楽しそうに笑うレフィの横で、レシュがこんな事を呟きはじめた。


「私の所持するデータによれば、こういう会話の生じる可能性……むぐ」


レシュの口をレフィは覆ってしまった。


「データで片付けてしまうのはあまりにも味気ありませんわ。“探し求める者”であるシェリィ自身に探求してもらいましょうね」


本当におかしな事を言い出したレフィの態度に首をかしげた後で、天を仰ぐ。
この騒動も、もう直ぐ終わりを告げるのだと、最前線から流れてくる情報で知った。

滞在時間に対してあまりにも密度の高いさまざまな人物達とのやり取り。
レフィの護衛というのは名目だけに出来ないために、全員に会いにいくというわけにもいかないのが惜しかった。
そういう意味でも、余裕がある限り滞在中に知己になった者達を探してみたかった。
故郷へ帰る者も、次の世界へ行くという者も多いだろう。
それに全員に会えるとも限らない。


「……長いような短いような日々だったなぁ……やり損ねた事も話損ねた事も多い。だが残った時間はまだあるからね。その間に……少しでも後悔は減らしたいもんだ」


うーん、と大きく背伸びひとつ。


「親のような心境に、ねぇ……聞いても答えて貰えないのはアークも同じだろうしなー……自分で探せって言われても」


今度は困った顔でため息ひとつ。
レフィナードという己の上司のような存在は、いろんな意味で謎めいているのだった。

予想外の人物の到来、故に、ぽかん、と一時間の抜けた顔を晒してしまった

突然現れた魔法陣に一瞬驚くも、そこに見知った姿を認め、思わず声を上げる狐。

少女から事の次第を聞き、にぱっ☆と微笑む。

少女の丁寧なお辞儀に、狐はいつもの調子でお気楽に応えた。

（鞘から長剣を抜き放つと綺麗に構えを取って）

（緩やかに仕込み杖を長剣の形に変形させて構える）

（綺麗な所作で長剣を鞘へ収める）

（穏やかに微笑つつ仕込み杖を元の杖に戻す）