――或る所に、一人の女がおりました。女は間もなく、不幸な死を迎えます。

　生来より不幸な生い立ちの女でした。ですが彼女は今、それとは何ら関係なく最上級に不幸な死を迎えます。
　そう。女の最も不幸な部分は――“それ”に出会ってしまったことなのです。

　女は必死になって抵抗します。
　自らの腕を噛み千切り滝のような血液を噴き出させると、その鮮血を自在に操り刃のようにして化物を迎え撃ちます。
　しかしそんな児戯は、化物にとって何処吹く風。
　紅き刃が付ける傷口は瞬く間に再生し、肉が強化され、君臨します。

　最早女に抵抗の術は有りません。
　大人しく喰われてしまう他ないのです。

　化物の牙が首筋に迫ります。
　かかる吐息は熱を帯びており、化物からたなびく薄紫色の毛髪からは甘い香りが漂います。
　徐々に意識が朦朧としていく女。

　ああ！　なんという悲劇！
　女は鋭く、月光を反射する銀色の牙に穿ち、貫かれてしまいました！

　啜られる血液。
　枯渇していく肉体。

　薄れ行く意識の中、最期の瞬間女が目にしたのは。
　淫らに微笑む、邪悪な化物でした。

　そして女は、死に至ったのです。


　――――。

　ラフィン・F・コッポマンは、眼前の光景を信じることが出来なかった。
　殺しても殺しても平然としている化物――《始祖カーミラ》に襲撃されたこと。
　今にも殺されそうに――否。一度自分が、確かに死んでしまったような感覚を覚えたこと。

　そして突如現れたミラルカが何かを語ったその瞬間。
　自分の肢体が、石のように硬くなり化物の牙を跳ね返したこと。
　それら全てを、信じることが出来なかった。
　
　――自分は、夢の中にいるのだろうか？
　　　　　　　　　　パッパラパーに
　それとも、頭がお か し くなってしまったのか？
　どちらにしても、この光景が現実の物であるとは、とても信じ難かった。

　致命傷には至らなかったとはいえ、かなりの血をカーミラに抜かれてしまった。
　朦朧とする意識の中、蹌踉めいた所をミラルカに支えられる。

　始祖の表情が、明確に変わる。
　まるで玩具を取り上げられた子供のように不愉快な表情を浮かべ、ミラルカを睨み付ける。

　――きぃん。

　始祖の紡ぐ言葉は、ノイズによって掻き消される。
　始祖が言葉を発しても、何も起こらない。何も変わらない。

　　ブ　ラ　ッ　デ　ィ　・　ヴ　ァ　ニ　ッ　シ　ュ
逆流性他傷行為・暗転！！

　怒り狂って襲い来るカーミラ。
　あまりにも鋭く烈しいその一撃は、触れるものを全て消失させる――。

▼「化物の楽園」ミラルカの行動！
クライマックススキルが発動！効果増幅Lv.99!!

　パラダイス・ブラッド
最終兵器！！

　――と、思われたが。
　カーミラにより振り下ろされた爪撃は、黒い霧の寄り集まって出来た盾に弾かれてしまう。

　激昂し天へ向け叫ぶカーミラ。
　それを見るなりミラルカは地を蹴り、カーミラの懐に入り込む――。

▼「化物の楽園」ミラルカの行動！
必殺技が発動！効果増幅Lv.99!!
　 スィンク・シェード
月の陰地！！

　――、一撃。
　二撃。三撃。四撃、五撃。

　カーミラの血肉を抉り取りながら、再生の暇も与えず六撃目で心臓を穿つ。

　――絶叫。
　えぐり込むように捻り込むと、腕を思い切り引き抜いた。

　そして七撃目――、ミラルカは首から、青い十字架を引き千切ると。
　カーミラに空いた心臓の孔へ向け、思い切り突っ込んだ。