指摘は合っている、と微笑む彼女は、“成長ならあなただって”と続けた。

************************************************************

真っ直ぐに自分を見据える少年に、彼女もまた真っ直ぐな視線を返した。

浮かべた花笑みに別れの辛さが含まれていなかったわけではない。
けれども、その笑顔はこれからの希望がずっとずっと多く詰まっていた。

はは、と背中を軽く叩いた。

肉を適当な枝や串に刺して火にかけると、こちらも徐々に良い匂いを発していく。

ギガヤの頭上から飛び降りると、そのままポンポンと弾むように移動し、
リオンの膝の上に飛び乗った。

それっぽい理屈ではある。

ちろりんは、ブラッシングしてもらいながらもチョコレートをもぐもぐしながら

説得力皆無である…。

リオンをむにーっとしてやる。ぷにぷに。

そういってにこっと笑う。怖い。

ちょっと汗ばんできた気もしなくもないけど、ぴっとり離れない。

おそるおそる聞いてみる。

ちょっとまずそうな顔をしている。

ふわっ、と飛び上がるとリオンの頭をぽんぽんとする。

本当に楽しそうだが、目はまじだ！

あくまで提案のようだ。特にリオンにもアリエスにも強制しているような感じではない。

それ以上は特になにも言わず、事実存在している紫髪の少年を見る。

ぎゅーっとされつつぎゅーっとしている。

アリエスにほっぺたぷにぷにされつつ、和やかに笑っている。

顔を赤く染めながら、そんなことをいいつつ。嬉しそうに見上げて満面の笑みを返す。

　と、いいつつも子供扱いするかのように小狼の頭をぐりぐり撫でて

　でも、それを背負って生きる必要もないさ、と狐は達観したように告げた。

　うむうむ、ともっともらしく頷いて。

　差し出された手を取りながら、狐は告げる。
　自身もまた、肉体が滅びる度に同一の記憶をもって生まれ変わる存在であるということを。
　同じ鼓ではあるが、九匹の蟲毒狐、いずれかが核になることで細かい差異が生まれてしまうということを。

　黄緑色の蔦とも、指ごしに握手をして。
　暖かな力がとても心地よい。狐は内心に喜ぶ。この子はきっと、最後まで小狼の傍に居続けてくれるだろう。
　任せてと応えられたような気がして、にやけるように頬を緩ませた。
　そっと、蔓ごとリオンを抱き寄せて。よしよしとあやすようにさする。

　リオンは、フェンリルのように神に逆らうことは出来るのだろうか。表情が少しだけ、翳り。

　そして、一呼吸。
　踏み出した足を、更に踏み込んで尋ねた。

　真っ直ぐに小狼を見つめる。目は逸らすならば、全てを見捨てようと心に刻む。
　逃げることが彼の道ならば、それも仕方がないと思うからだ。だが――、

　小狼に語り聞かせた物語における、妖狐の役割。自分がいなければ、あの男の、"主"の暴走は無かったのだ。
　男は既に死んでいる。２年も掛けて探った末の結論だ、間違いない。
　しかし狂気だけは生き残っていた。技術として継承され、最終的にフォルシュの手に渡ったらしい。
　命令されるがまま撒き散らした罪は、巡りめぐって彼の運命を捻じ曲げた。

　――少年は、妾を憎むだろうか。

　黄昏色の狐は妖尾を炎のごとく揺らめかせ、白銀色の狼を鋭く見据える。

*******************************************************

それだけ答えると、静かに巨大な本に目を落とし、
なにがしか呟くと視線を戻す。

そして、本に対してまた何かを呟く。

『…リオンがそうしたいのなら、そうすれば良い。
　リオンが"ずっと何かをしていたい"って珍しいもの。
　そっちは楽しいのね。』
『…うん。リオンと共に在る事が出来るなら、私もそうしたい。
　その為にも…ね？』