『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.09.09.03:28、とある施設にて――


　夢は唐突に破られた。
　夢を背景に、淡い白い光を帯びた少女が現れる。夢の中の少女と
容姿も衣装も同じ少女だった。違うのは色だ。光を帯びた少女は金髪で
青い瞳、ドレスは白だった。あの少女の電脳世界での姿を実際の年齢に
近い、幼くなった姿だった。


　黒い染みが風景に広がり、少女の周囲を黒一色に染めた。二人の
少女と木製のラウンジテーブルしかない空間に変わる。テーブルには
紅茶のカップやポットなどの食器一式、ケーキスタンドが置かれていた。
ケーキスタンドはケーキやスコーン等が盛りつけられた皿が三段に
なっている。
「お兄さんも飽きてきたでしょう？　電脳世界のお茶会はどうかしら？」
　金髪の少女が言った。いつの間にか電脳世界での姿が認識出来た。
夢の世界は終わっているらしい。
「俺はリリィさんと映画鑑賞をしていた筈だが？」
　金の少女は笑う。銀の少女はテーブルの席についてグラスの飲料を
見つめたまま、少女の時が凍り付いたかのように動かない。
「私がお兄さんを呼んだのよ。リリィさんなら気にしなくていいわ。
電脳の世界から落ちたように見せかけてあるから」
「……それはどうも。で、君は誰なんだ？　俺とデートしたお嬢さんとは
見た目は似ているが、所持している情報がほぼ異なるようだが？」
「私？」
　少女はケーキスタンドからサンドイッチを手に取り、考え込むように
首を傾げ、少しの間を置いてから答えた。
「私は……貴方の知っているあの子と違うけど、私もあの子よ同じよ。
同じ身体だけど、性格は正反対ね」
　サンドイッチを一口かじり、美味しいと笑った。
「同じ人物？　一人の人間に複数の人格が生まれる多重人格ってやつか？」
「うん？　多重人格？　身体は一つだし、そうなのかな？」
　少女は二個目に手を伸ばす。
「よくわからないけど、私がある想いで葛藤していた時に、私とあの子の
人格が二つに分かれちゃった」
　これも美味しいと笑う。電脳の世界で味覚はないだろうが、
サンドイッチの情報から身体に何らかの影響を与えているようだ。
「一つ言えるのは良い子と悪い子にはっきりと分かれたってことね。
あの子が良い子で私が悪い子ね」
　止まったままの少女に目をやる。
「あの子と意見が分かれちゃったのよ。私達が分かれる原因となった
特定の感情とその扱いについて……ね」