目の前で繰り広げられた、ベルクレアの人々の話が気になったのだ。
途切れ途切れであったが、彼等の話は聞こえた。


―― 強制型が…　どうとでもなる？ ――


やりとりが良く判らなかったのだが…　
強制型エンブリオの話に興味を示していた銀色の長髪の女性は、
深緋色の短髪の男を半ば無理矢理引っ張って、その場を後にした。


残った3人は、荒野の先へと進むようだ。


逃げてもいい…と、白い軍服を身につけた黒髪の青年が、こちらに向かって軽口を叩く。


―― 逃げる…？　どこへ…？ ――


後を追おうとするも…

先生が、引き止めた。

悩む。


ロク君は、荒野への進攻を私に任せ、去っていったスチュアート君を追いかけていった。


あれから随分経つが、彼等の気配は荒野には無い。

……これで、いいのかもしれない。ロク君は安全な ―― 少なくとも、この荒野よりも ―― 場所に居る。
スチュアート君と合流して、もし彼が傍に付いているとするなら、悪いようにはならないだろう。

皆まで言う前に即答される。

不承不承ではあるが、頷く。
来た道を引き返して、2人を呼びに行く先生を見送る。


息をつき、周囲を見回す。

休めそうな岩陰を見つけて腰を下ろし、もたれかかると、
今まで押し留めていた倦怠感が、堰を切って全身に圧し掛かってきた。


瞼を、閉じる。辺りに生き物の気配は無く、ただ一人。　ふっと、寂しさが沸き起こる。

その名が、零れる。


………！

ふと遠くで、何か声が聞こえた。そんな気がした。

屈託の無い笑みを浮かべる少年の顔を想い出し…　少しだけ、緊張がほぐれる。

そのまま、意識は眠りの闇の中へ。