さんじゅうはちにちめ。

黒髪の男と白髪の女の二人組との戦いは呆気なく終わりました。
というのもあの二人組み、戦う意思はあっても私達を倒して勝とうと思ってはいなかったようです。

･･･つまり凄く手加減されてました。
うーん何だか遊ばれてた感じで少し胸の内がモヤモヤします。

ともあれ、手加減とはいえ勝利は勝利です。
なので報酬に二人組からお城に続く道を教えて貰おうとしてると･･･私達の目の前で急にイチャイチャし始めた。
黒髪の男の言葉に白髪の女の顔が真っ赤にして慌てながら大声で言い返してます。

急な惚気っぷりに披露する二人組に、私とアラヤちゃんは冷たい視線を送ります。

イチャつくカップルの影に、壁作り職人さんと壁殴り代行さんの影在り。
農場でイチャつくお兄さんとお姉さんを見た男子群が「壁殴りてぇ…。」と呟いてた意味が少しだけ理解できた気がしました。

そんな閑話休題は置いといて･･･私達二人が報酬はまだかまだかと待っていると、
一通りイチャつきの終えた二人組は私達に報酬も渡さずに先へ進んで行ってしました。

どうやらあの二人組は自分達の世界に入っちゃって私達の事をすっかり忘れてしまってる様です。
慌てて二人組を追いかける私達。

…この二人組はこれからは『バカップル白黒』と呼ぼう、そうしよう。

･･･尚、数年後の世界で自分もそのバカップルの一組になるという事実はこの時はまだ知る由も無い。

意外と先へ進むのが早いバカップル白黒に何とか追いついた私達は、
キレそうになる精神を落ち着かせながら約束であるお城への道を聞き出す事に成功しました。

再び聞き返そうとしたら既にバカップル白黒の姿は無く、階段の大分上の方から声が小さく響いてくるだけでした。
流石に追いかけるにはとても間に合いそうも無く、結局外に続くこの階段を教えてもらっただけでした。

心の内でそんな悪態を吐きながら、私達は外へと続く階段を上っていきます。
長い階段を暫く上っていると、左右に分かれた分岐路に着きます。

分岐路の真ん中にはご丁寧に行き先を記した看板も立てられてました。
立てられた看板を確認すると、右は砂地に続いて、左は草原に続いてるようです。

本音は砂地は暑いので行きたくないだけです。暑いのは嫌なのです。
それ以上に以前の荒野の様な醜態はアラヤちゃんに見せたくないです。

私の中では平原まっしぐらなのですが、私の一存で決めちゃダメなのでアラヤちゃんに確認を取ります。
アラヤちゃんは私の心中を察してるのか、特に嫌な顔もせずに一言返事で頷いてくれました。

そんな訳で私とアラヤちゃんは手を繋いで仲良く草原へ続く通路を歩き、先へと進みます。


　＊　＊　＊

女神の園から無事脱出できた私達一行は一面どこを見渡しても緑の絨毯で敷き詰められてる大草原地帯の真ん中に居ます。
天候もぽかぽか快晴日和。微風がふわりと靡くと若草の良い匂いを感じます。

日はまだ高いですけど、女神の園や地下牢での強行軍で大分疲弊してる私とアラヤちゃん。
お互いに相談してここで一旦キャンプを張ってゆっくり休もうという事になりました。

見晴らしの良い場所に陣を取り、一通りに野営の準備を終えた私とアラヤちゃん。
やっとゆっくり休めると私は焚き火横に座ったままウトウトとしてました。

実の所、ここ数日はまともに寝れていません。
その理由は、水辺の園での戦闘で問題となってた術式の事で睡眠時間を削って改良を急いだからです。

あのバカップル黒白での戦闘での術式も、実はフロスティ戦で使った術式と同じ術式の様に見えて、細かい負荷を減らした改良型だったりします。
そんな訳で寝る間も惜しんで改良に勤しんだので、疲労がピークな私にぽかぽか暖かい日の光に照らされて強烈な睡魔が襲ってきてました。

･････････。

シチューの良い匂いに気付いて目が覚めると、すっかり夕暮れ時で焚き火の光が暗くなった周囲を照らしてました。
私が目を覚ました事に気付いたアラヤちゃんが夕食のシチューを作りながらお目覚めの挨拶をしてきました。

私は挨拶を返すと、自分がいつの間にか横になって寝ていて、上から広げられた外套を掛けられた事に気付きました。
どうやら私が座ったまま寝ている事に気付いたアラヤちゃんが起こさない様に寝かせてくれたようです。

その事でアラヤちゃんにお礼を言うと、「あのままじゃ風邪を引くから･･･」と照れながら顔を少し逸らします。
アラヤちゃんは本当に健気で良い子だと深々と感心します。
もしもこの子が私の妹だったらいいのになぁ〜なんて、ちょこっと不謹慎な事も思ったりしました。

･･･それにしても、アラヤちゃんのお姉さんってどんな人なのでしょ？
アラヤちゃんがこんなに良い子なのだから、アラヤちゃんのお姉さんもきっと凄く良い人に違いないです。

そんな事を思っていた時でした。
急に周囲に草を踏締める音が聞えて、私とアラヤちゃんに緊張が走ります。

気が緩んでた訳ではないです。でも改めて気配を察してみると周囲に複数確認できました。

気配のする方を目視で確認すると、小型の気配からは妖精達が。
人型は青銅とロバの足をした悪魔っぽい女性。大型は明らかな化け物の姿が見て取れました。

気配の中の内、小型の気配がする妖精は目視できたと思うと、急にフッと気配と共に姿が消えると別の場所に再び現れます。

どうやらあの妖精が他の人型と大型の魔物と行動してたせいで、囲まれるまで私達が気付けなかった原因のようです。
平和そうな草原地帯だし、気配察知が出来る私とアラヤちゃんだから大丈夫と少し甘く見ていたようです。

私とアラヤちゃんは急いで術式を展開して臨時応戦の構えに入ります。
私は武器を構えながら魔物の群れの動向や視線の様子を確認していると、どうやら魔物達はアラヤちゃんの作っていたシチューがお目当ての様子。
･･･以前にも思った事だけど、ここの魔物達って食に飢えてるのかしら？

兎も角アラヤちゃんが作ってくれていたシチューをこのままむざむざと奪われてなるものかと、
私はアラヤちゃんと共に魔物の群れの前に躍り出て戦闘を開始します。