「……む？主様、そのケープはどうした？」

山で出会った青年から受け取ったケープを眺めていると、ふわりとヘアピンから出ていた槿花が首を傾げた。
そういえばあの取り引きのときには彼女は表に出てきていなかった、だから私の手の中にある見慣れないものが気になったのだろう。
ぱっと受け取ったケープを広げ、槿花にも見せながら、口を開く。

「とある方から頂いたものです。どうやら、向こうは私のことを知っていたようで」
「む？向こうは……ということは、主様はその者のことは知らぬのか？」
「ええ、まあ。不思議なこともあるものです」

槿花にそう返しつつ、私はネクタイを一度解き、身につけている黒いケープを脱ぐ。
長らく愛用していたそれには、花の香りに混ざって嗅ぎ慣れた血の臭いが染みついていた。
今まで身につけていたそれを丁寧に畳んで、荷物に放り込んでから、紅梅色のケープを新たに身につける。
そうして簡単な着替えが終わると、私はすっくと立ち上がった。

「おや？主様、どこかへ行くのか？」
「ええ。あの方が別の場所に行く前に、お礼を言いに」

槿花にそう返してから、歩き出す。
あの背中を見失う前にという気持ちが強かったのだろう、その足取りはいつもよりも速かった。