絶望をしたことがなかった。だから私にはいつも革命の途上で落伍していく者たちのことがわからなかった。少しずつ妥協しながら楽園に向けて書き換えられていく地獄を、そのたびに生ぬるいと破壊してここまで来た。過去をルヴナンの中に振り返り続けても答えはなかった。私は幾度でも熾烈さに手を染め、革命の現実的な決着に否と言い続けた。誰かを勇気づけることは私に難しい。私には絶望がないからだ。その感情の陥る穴を持たないからだ。不感のままで空疎な言葉が上滑りする。こんなことはただの理屈だ、きっと届いていやしない、どこかでそう見限りながら、アトラに、フィガロに、戦い続けろ、と、呼びかけている。言葉を選びながら。それでもフィガロのために選んだ言葉はあまりに毛色が違った、この先にネクターを持っている人間がいたら襲うと……それは私の革命軍と戦う動機ではなかった。私は革命の回転のなかに生まれるひとつの抵抗として、今一度流れを問い直し、革命意識の真偽を諮る抵抗として革命のなかの人斬りであるはずだった。しかし、……

しかしパラダイスは斃れた。ヨーレも斃れた。メルンテーゼの革命は終熄へ向かいながら、神話めいた後日談が続いている、私はその中で、政体ではなく、今やフィガロのために銃を握っている。……

もう、革命者ではないのかも知れない。この戦いはもう革命ではない。引き延ばされて見失った戦争の消息のなかで私のそばにある確かなものはフィガロの美だった。いや、より正確には、フィガロの美とそのそばで蠢く人の姿をした闇だった。そのどちらのことも私はずいぶん好いていた。その好意が粘つきながら落ち切らない時間のなかで私の歩みに意味を与えていた。

焼け野には灰がときおり残されていた。それを指先に救い上げても、もとの姿はとうに知れなかった。なにかひとつのものであったのか、それとも多くの固有名が固有性を失ったまま混淆されて横たわっているのか、ただ灰としてより名指すほかには……投げると、風に乗って、ばらばらに消えていった。熱の痕跡が空に響こうとして、遺志よりもはかなく時に呑まれた。世界が滅びようとしていた。でも私にはフィガロがいた。