『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.09.09.02:12、とある施設にて――


　これを夢と言っていいのか判らないが、夢は続いている。
　誰が何の目的で干渉しているのかも判らない。いや、
夢を見ている間は、思考が夢のみに傾いてしまっていた。
同時に行っている処理でさえ、思考に入ってこない。
疲労による怠さが思考を麻痺させているだけなのか。
それとも何者かが不調にさせているのか。
　この夢は一体何だ。俺に何かを伝えようとしているのか。



　少女が果実を食べて一週間が過ぎた頃だった。

　少女の周囲で不可思議な現象が起きるようになっていた。
　少女が掃除をしようとすれば。箒が勝手に動き出し、
部屋の掃除を始めた。衣類の洗濯をしようとすれば、衣類や
道具が勝手に動き出して洗濯を始めるのだ。食べたいものの
料理をしようとすれば、食材と調理器具が動き出すのだった。

　少女は老婆の魔法使いの家でひっそりと暮らすことにした。
魔法使いの家の周辺の森は、妖精が棲んでいると言われており
近隣の村人は近づこうとせず、丁度良い場所だった。
　一人で暮らす理由は一つ。力を制御出来なかったからだ。
周囲に迷惑をかけたくなかったし、この力を誰にも
知られたくなかった。


　ある時、老婆の魔法使いを訪ねて、背の高い老婆の魔法使いが
訪れた。老婆の友人の一人だった。その魔法使いは少女のことを
知ると、少女にその力が魔法であると教え、魔法の使い方、
魔法使いに必要な知識を一から教えた。

　少女の飲み込みが早く、老婆は予定よりも滞在が短くなると
笑った。少女は寂しそうに俯いたが、老婆は少女の頭を撫で、
いつでも会えると笑った。
「覚えておくんだよ。この世界には善い魔法使いと悪い魔法使い、
それと、そのどちらでもない魔法使いがいる。魔法使いに会ったら
そいつの目を見るんだ」
「目を見るの？」
　少女は首を傾げた。
「魔法使いは目の輝きを見れば、その人物の善悪の傾きが判るのさ。
善い魔法使いは目が光が宿っていて綺麗な目をしているんだよ。
悪い魔法使いは目に闇が宿っていて、暗く淀んだ目をしているよ。
目に関する魔法をかけてある奴の目は見るもんじゃないが」
「ふぅん、そうかぁ」
　少女はぱっと顔を輝かせる。
「やっぱり、ここに住んでいたお婆さんはいい人だったんだね」
「ああ、そうだよ。彼女は誰にでも優しい魔法使いだった。
それ故に一人で静かに暮らしていた」