遠い先に、『先』に居る人々の噂を聞き、思いを馳せることがある。
　隔たりは深く、もはや通常の手段で自分の目で見ることは叶わないだろうと、思う。
　理性は、それは少し違うと告げる。話したいだけなら、近寄りたいだけなら、手段はある。たくさんの入口がある。一揆に参加しているというただそれだけで、話しかけることは出来る。『お前は誰だ』と問われもせず素通りされるかもしれない、その『かもしれない』程度の障害でしかない。
　もっとも困難な断崖は、理解したと錯覚するほどの、『噂』かもしれない。
　先に行くひとびとは、多くの目を集める。尖った目的を持つからこそ、力を持つことも多いのか、あらゆる逸話が耳に入る。だが、取り違えてはならない。尖った目的を持ったから、そこに居るわけではないということを。

　もしも会う事があったなら。決して会ってはならないけれど。聞いてみたいような、確かめてみたいようなことがある。しかしそれは、本人達ではなく、噂を聞いた自分自身によってかたちづくられた輪郭への問いかけのような気もする。

　欲しい、と明言しているものの先に、何を求めるか。
　何故求めるのか。
　あなたたちをかりたてる熱は、一体何なのだろうか。

　もしも何処かで出会えたなら、自分はそれを問うてみたいのだろうか。
　世界を変えるほどの願いに、触れて、そうしてどうなるというのだろうか。
　知りたいというそれが、自分の願いだろうか？

　遠いからこそ、憧れているのかもしれない。
　調査隊への親愛とは程遠い、一度触れてみたいという願いが、どこかにある。
　その感覚を覚えるたび、幾度も教訓を繰り返す人間が、原始の昔、炎に触れてみたという伝承を思い出す。
　あれは寓話なのか。教訓なのか。

「――徒夢に踊れ、逆夢に喜べ。汝幸いなる魂よ」

　自分を諌めるように、古い言葉にさらなる言葉を混ぜる。
　夢なる狼が、目ではない目を開いて、自分を見た。

　そっと、迷迭香の鍵に触れる。砂煙の向こうの幻視から覚めて、本当に目を開く。
　菓子の甘い残り香を思い、ゆっくりと頭をめぐらせる。
　同地点での行動が続いている。少し開けた場所では、調査隊の女性や青年、精霊の子供といった面々が、材料を吟味し、合成と付加を組み合わせ、様々なことを検討している。自分を合わせることより、身にまとうものを合わせてゆくことは明らかに増えたと思う。それは、拘りと言い、個性とも言う。

　ここは既に、日常になっていた。