※この日記は（ENo.758）レイヤ・センドウの日記のオマケみたいなもんです。

　
　「何だか私が二人いるバグなんだけど、死ぬのこれ！？」
　「ドッペルゲンガーだったら二回目まではセーフらしいけど、やばいよね！？」

　私ともう一人の方のウルドは、顔を見合わせながら魔王と名乗るオリフィアさんの攻撃に備えて結界の維持に集中した。
　結構容赦なくオリフィアさんの攻撃が続いてるのに、セツカ兄ぃの背後霊っぽい人が何か色々と話してるのが見える。
　私の記憶だと、セツカ兄ぃとオリフィアさんは恋人同士だった筈なのに、どうしてこうなった。
　
　「オリフィアさん！私です、深雪！セツカ兄ぃの従兄妹の……」
　「ちょっと、ウルドB！頼むから戦闘に集中してよ！？スルーされてるでしょ、どう見ても！」
　　　
　確かにオリフィアさんの表情はまったく変わること無く、こちらへの攻撃を緩める気配もなかった。　
　私としては、もう一人のウルドにB呼ばわりされたことに文句を言いたいんだけど、防御に手一杯でそんな余裕もちょっとない。
　そんな私達の事が心配なのか、話の途中でチラチラとこっちを見るレイヤ先生。
　明らかに、戦闘面で信用されてないよね私。
　
　「相手は、何処かの世界の魔王らしいからね。それを持ちこたえてるだけでも大したもんだと思うな。僕の全力だって軽くいなす相手だもの。」

　懐かしい声に思わず視線を向けると、オリフが（※深雪は子供の頃から呼び捨て）私の肩をポンと叩いて励ましてくれた。

　「オリフ！あっ、オリフおばさん！相手、どっかの魔王なの！？もしかしてラスボスと戦ってるの私！？」
　「うん、まぁ。僕も又聞きだし、セツカの想いで呼び出された召喚獣みたいなもんだから詳しいことは知らないけどね。そういう制約がなければ、淡雪っぽく育った深雪ちゃんを思う存分愛でてる処なんだけどなー。実に惜しい。」

　そう言ってウインクすると、オリフは前に駆け出しながら手を上げた。

　「んじゃ、深雪ちゃんの負担を少しでも減らすように陽動してくる！後は頼んだよ！」
　「あっ、なんか死亡フラグに聞こえる。」

　余計なことを言うもう一人のウルドの小言を無視して、私は結界の中に更に結界を貼る多重結界の準備に入った。

　「オリフに励まされたんだし、頑張らないとね。ほら、そっちのウルド。多重結界張ってるんだから、結界修復に切り替えて！」
　「ううっ、Bに命令されるなんて悔しい！でも分かった。役割分担は任せて！」

　結界を二層にしているので、もし一つが壊されても一つの結界で防ぐことが出来る万全の防御陣。
　どう、ユカラ。私もなかなかやるでしょ？
　少し心に余裕が出来たのでユカラの方に視線を向けると、ユカラは私を見て首を傾げた。

　「深雪って、自然に増えるんだ。」
　「誰が増える深雪だぁ！？」

　パリーン！
　あっ、言ってるそばから一枚割れた。結界が。

　「なるほど。重い一撃より、数で押したほうがいいのね。」

　オリフィアさんの深淵のような闇を内包した視線を向けられて、思わず身体が強張ってしまった。
　
　「ビビるなウルドB!多段でくるなら、反射結界で返せるでしょ！しっかりしなよ。そんなんで、サクラを守れるの！」
　「うっ、ごめん。そうだ、私はサクラを守るためにここに居るんだ。あと、ユカラとか、マグノリアちゃんとか、レイヤ先生とか、セツカ兄ぃとか……」

　兎に角。
　誰も傷つけたくないから、結界術を覚えたのだ。
　その情熱は、相手がたとえ魔王でもラスボスでも譲る訳にはいかない。

　「道産子とか俺の事もたまには思い出して欲しい。」
　「うさぎ先生！」

　結界の外に居たうさぎ先生は、オリフィアさんの攻撃を受けて吹っ飛びながら私に親指を立てた。

　「大丈夫だ。あと一機居る。」

　よかった、あと一機いた。
　そんなこんなでオリフィアさんとの攻防を続けていると、どうやらセツカ兄ぃの背後の人とも話がついたらしい。
　サクラとレイヤ先生が、なんかやる気を出している。

　「アレをやる気なんだね……」

　もう一人のウルドが、そんな二人を見てゴクリと唾を飲む。

　「えっ。アレって、何？なんか対消滅魔法とか、ラブラブ合掌拳とかあるの！？」
　
　期待を込めて見つめる私に、もう一人のウルドはおどけて笑った。

　
　「うん？知らない。言ってみただけ。」