雪は相変わらずポツリポツリと降ってはいたが、風はほとんど無く　　
　
　「寒くなってきたし、中で暖をとらない？帰りは、あの雪道戻るんだし。」

　ユカラが教会の堂内を指さすと、深雪はコートの雪を払いながらベンチから立ち上がった。
　
　「あー……うん。でも、ミサとかあるだろうし、私魔女だから遠慮したいかなぁ。」

　深雪の返事に、先にベンチから立ち上がっていたユカラが首を傾げた。

　「錬金術士じゃなくて、魔女？深雪、いつ魔女になったの。」
　「あれっ、言ってなかったっけ？過去に行く時に、ノウァの持ってる鏡を通れないとダメだから、その時契約したんだよね。」
　「その話で行くと、ノウァさんは悪魔なんだね。それも、初耳なんだけど。」

　ユカラのツッコミに、深雪はシマッタという顔をすると、慌てて口元に指を立てて内緒のポーズをした。
　
　「あっ、ノウァの正体は内緒ね！前に、正体バレて死ぬ目に遭ったらしいから、基本的に隠してるんだって！」
　「イチジクさんとか、ねこっぱちは隠してないよね。分かった、他の人には内緒にする。深雪が魔女な事も言わない方がいい？」
　「うーん。まぁ、友達に聞かれたら答えるぐらいで。別に私が魔女でも、錬金術士でもそんな変わんないよね。魔法のない世界から来たから、どっちにしても魔女にならないと錬金術師になれなかったし。」

　ユカラは頷くと、身の回りの雪を払って帰りの準備をはじめた。

　「あっ、帰りは転送術使うから、ちょっと待ってて！」

　深雪はその辺から木の枝を拾ってくると、目の前に魔法陣を描き始めた。

　「兄様も使ったりするけど、深雪もそういう魔法使えるんだ。ところで、教会の庭に魔法陣なんて描いて大丈夫？」
　「うっ！？あんま良くないけど、時間経てば消えるし！」
　
　素早く魔法陣を書き終えた深雪は、ユカラを手招きすると転送魔法の詠唱に入った。
　雪で描いた魔法陣を崩さないように、慎重に中に入るユカラ。
　
　「間違えて、変な場所に飛ばされたりしない？」
　「失礼な！私の魔法はサクラほどじゃないけど、結構信用できるんだよ。って、詠唱途中に話し掛けないでよ。どこまで唱えたか忘れちゃうでしょ！」

　深雪が呪文を唱え終えると、周りの空間が歪んで意識ごと何処かへ飛ばされる感覚にユカラは襲われた。
　軽い目眩のような状態から回復すると、目の前の場所は最初に深雪と待ち合わせした公園のベンチだった。

　「到着……っと。ね、ちゃんと戻れたでしょ？」
　
　自慢気に胸を張る深雪。
　
　「身体が浮くような感覚は、あんまり慣れないけど便利だね。そういえば、プレゼント交換するんじゃなかったっけ。」

　ユカラは小さな袋を取り出すと、深雪にそれを渡した。
　
　「あっ、そうだった！寒くてすっかり忘れてた。あっ、これ私にくれるの？開けていい？」

　ユカラが頷くのを確認して深雪が袋を開けると、うさぎを象ったヘアゴムと、うさぎの模様の模様のついた靴下が入っていた。

　「わぁ、うさぎさんだ！ユカラありがとー！ヘアゴムの方、今つけてもいい？」
　「あげたものだから、もちろんいいよ。足元濡れてるから、靴下もって言うのかと思った。」
　　
　後ろ髪にヘアゴムを付けて、ユカラの前をクルクルと回る深雪。

　「ねぇ、どう？どう？似合ってる？かわいい？」
　「うん。うさぎと深雪はよく合うからね。似合ってるよ。かわいいは、うさぎの方？それとも、深雪の方？」
　　
　ユカラの質問に、急に頬が紅潮した深雪は慌てて手をブンブンと振った。

　「あっ、違う！？うさぎさんの方！うさぎさんの方！私も、ユカラにプレゼント渡さなきゃ。」

　深雪はポーチからタリスマンの付いたチョーカーを取り出すと、ユカラの首にそっと掛けた。

　「ユカラが好きそうなもの、クラゲしか分かんないから、狩りとかで怪我しないように御守作ってみたんだ。デザイン的にも、結構カッコイイと思うよ。」

　やや頬を紅くしたまま微笑む深雪。

　「御守か。怪我しなかったら、深雪のお陰って事だね。ありがとう。今日はデートのために色々準備もしてくれて、おかげで楽しかったよ。」

　ユカラは深雪の頬に触れると、その身体を引き寄せた。

　「あーっ！？ちょ、ちょ、ちょっと待って！？タンマ、タンマ！？」

　やたらと暴れる深雪に、ユカラは怪訝な顔をした。

　「ご褒美のつもりだったんだけど。嫌？」
　「いや、じゃないけど！？今日のデートはアズちゃんに抜け駆けしたみたいで後ろめたいから、ダメ！？」
　「何でそこで、アズの話が出てくるの？告白は確かにされたけど。」
　「……ユカラが鈍いのは知ってたけど、このタイミングで言われるとは私もショックだは。」

　急に目が曇る深雪。　
　
　「分かった。やめとく。こっちなら、平気でしょ。」
　
　深雪のおでこに、ユカラの唇がちょんと触れた。

　「なっ！？」

　ゆでダコのように真っ赤になった深雪から離れると、ユカラは目を細めて微笑んだ。

　「公園の外までは危ないから送ってくよ。今日はお疲れ様。」
　「お、お疲れ様っ。それじゃ、かえろー。私も楽しかった……うん。」

　ユカラに触れられたおでこを両手でおさえながら、深雪はユカラと一緒に帰途についた。