師匠に聞いたことがあった。同じものを見ていたのだとしても、自分と他人では全く違うように感じたり見えたりする。
　色のみえ方や臭いの感じ方、音からの影響に感情の起伏まで、全てが同じ条件でもない限りは同じように感じることも難しい。
　だけれど中々それに気づきにくい、何せ自分が自然に出す判断だから、疑うことも難しくて、ついそれが物の正しい見方なのだと感じてしまう。
　別世界へと旅立つことになったとき、私はそれを何度か復唱した。それでも彼が何を見て何を感じたのか、その糸口さえ見つけることは出来なかった。
　
　
　
　背の高い木々に囲まれて火の光は大分遮られているようだった、湿っぽい臭いは苔の生えた土や腐食の進む木々から発せられ、それと交わるようにして緑のみずみずしい香りがｔ期折捕えられた。落ち葉の上を歩くたびに、土と泥のどちらに身をおくか悩んでいる地面が凹み靴痕を保存している。わずかに沈み込んだ足を持ち上げ前へと進んでいく、視界では深い森を象徴するようにほとんどその変化を感じ取ることが出来ない。木の表情が変わらないこともその原因であるったけれど、メルンテーゼの豊かな自然が予定通りに動いている証拠でもあるので、それに文句を言うわけにもいかない。手紙に書いてあった約束の場所はそういう森の奥地にあるらしい。何時の間に見つけたものか想像するのが難しいのは、御互いに不干渉を続けていたからかもしれないし、彼が私への配慮を続けていたからかもしれない。どちらにせよ、何も分かり合っていなかったというのが、正しいところだといえるだろう。森が永遠に続くかのような幻想を抱くのはそこに行かないですめばいいという思いが多少はあるからかも知れず、そこに行かなければならないという思いを、正しく確立できていないこともあるだろう。
　だけれど物理的に森が永遠に続くわけが無く、いつかは出口に出る、もしくは開けた場所に出る。それは水が流れるのと同じような事で、時間が一方向へ流れ続けるのと同じようなことだ。――もし一方向へと進み続けていて、それが永遠と続いているのなら、どれだけ巨大な森だというのだろう、それは最早世界が森だというべきではないか。――。だから開けた場所に出てそこが約束された場所だと判定できる大岩をみても、あぁ来てしまった、もしくはついにきたか。としか思わなかった。
　それでも思わず息をのんだのは、黒い地面へさらに黒を上塗りする血溜りの存在であり、それを作り続けることが生涯科せられた使命であるように、大岩へ自らを貼り付けながら――その両手は、大きな釘で打ち付けられていた――。鮮血をばら撒き続ける黒髪の男性と見たからだった。目には光がなく、ただ生きていることをしめすように、こちらへと視線を投げ気だるげに微笑んだ。
　……一瞬それが誰だかわからなくて。とはいえそれで責められるのは少し厳しくないだろうか。なにより彼は間違いなく、数十歳は若返っていたのだから

泳いでいた目をつーっと逸らしまくってあらぬ方を見つめた。かなりあからさまだ！

クッキーを飲み下した姿勢のまま、表情は凍りつき、動作は停止。
見ている方が不安になるくらいの間、脂汗？　を流しながら沈黙し、おもむろに

とだけ呟いた後、爆発四散した。

きっと違う

フィーナさんの方を見て驚き！

突っ込みながらフィーナさんにシンユィン！

ちょっとぼーっとした後頷き

喉が渇いていたので、琥珀色の液体を一気に飲み干し！

近づく様子を首をかしげてみてるだけ……

軽く舌なめずりをしながら妖艶な表情で呟き

単純に意味が良く分かってない様子！

剣を抜く、二度三度と素振りをして、目を瞑ると彼女の周囲に光が集まり、衣装を変化させていく

数度、電気が流れたような音がして、ふよふよと鞘に収まったままの剣が彼女の周囲を囲むように浮いた