それは、いけないことだとわかってはいるのです。

血の中に倒れた主人を見、強い恍惚を抱く傍らに、
愛する、大切なものを損なってしまった、
裏切ってしまったという激しい自責の念。

私を愛した人間を、私が愛した人間を、
私は殺めた。

私は、きっとアトラさんと、その主人を重ねているのでしょう。
アトラさんを守ると決めた、それは私の罪滅ぼしだと、
きっと私は、思っているのでしょう。

無論、それがすべてではありません。
この世界で、他ならぬ私を初めに見留め、服を与え、役割を与えたのはアトラさんです。
私は、アトラさん自身を、大切に思っている。
何かの間違いで前のご主人様が私の目の前に現れたとしても、心移りすることはないでしょう。

でも、けれど、私は。

一体、アトラさんを何から守ればいいのだろう。
あの日、私は盾となり、守ることを、支えることを、生かすことを、私は約束しました。
無論、その約束は守り切れなかった。
銃に撃たれ、魔法はそれをはるかに凌駕し、見えない刃に引き裂かれ。
唯一にして最大の救いは、まだ我々は死ぬことなく生きている。
今や戦う意味もわからぬまま戦いを続け、行く当てはありません。
志のもとに羽ばたき、浮かび上がった何かが、ただ空を滑っていく。

あの日のように、私に命じてくれれば、どんなにそれが救いになるだろう。
でも今は、私が救われるんじゃない。
私が救わないといけないんだ。

私は、どうすればいい。
どうすれば、その助けられるのだろう。

ああ、どうか、そんなに悲しい顔を、しないでほしい。

フィリーの笑みに、つられるように頬を緩める。

そう言って、不思議そうに首を傾げる。

ブルーノは微笑ましげに目を細めた。
双方の楽しげな気持ちを祝福するように。

そう言ってフィリーから一度、ひょいと目を逸らし、謝罪を述べた。