天蓋庭園は、花の城だ。
　真っ赤な花が天井まで覆い尽くしてて、空が赤い。まるでこの世じゃないみたいな、すごく変な光景。
　ここに新王がいるんだって言われて、素直にそうなんだな、って思える場所だ。

　なんとなく、『柔らかい』って感じの男だった。
　ジェイドは年の頃なら僕やトムと同じくらいで、背はちょっと高くて（ちょっとムカつく）、それから、なんとなくいつも弱気そうに笑ってる。
　トムもけっこう、へにょんへにょんしたイメージあるけど、ジェイドはまたちょっと違う感じだ。おどおどしてるっていうか、何かを怖がってるって言うか、そういう感じ。

　この先には新王がいる。
　みんながそこを一斉に目指してるらしいけど、他の一揆衆とはなかなか出会わなくて、まるでみんなが別々にお城を攻略してるみたいなすごく変な感じ。
（だって、広いとは言え城内なのだ。いくらなんでも、こんなに人と一緒にならないのは限度ってものがある）
　僕たちは新王の直前までやってきて、少しでも戦力が欲しくて、だからちゃんと信頼できる助っ人を頼もうって何度も話し合った。
　助っ人といっても、誰かと組んで動いてる人を誘うのは難しい。
　一人で一揆に参加してる人たちの中で、僕たちが信用できて、きっちり一緒に戦える。
　ジェイドとは二回、一緒に戦ったことがあった。信用できる、と僕は思っている。

　少し言い淀んだ後、ふんわりと目を閉じて、そういってジェイドは笑った。

　子供に重責を押しつける訳にもいくまい、と、フィンが隣の花冠を見る。
　花冠はぼうっとこっちを見つめてたみたいだけど、フィンの言葉を聞いていたのか聞いていなかったのか、かすかに「ああ」と小さな相槌を打った。

　フィンと花冠が頷き合って、二手に別れるように歩き出す。
　ここから先は、別々だ。

　トムは花冠を追いかけて、僕はフィンの方を追いかける。
　トムと花冠をつれてジェイドが前に出る。僕とフィンは二人で前に出る。前々から何度も話し合って、僕たちは新王と戦うために何度も連絡を取り合ったのだ。

　だから、頑張らなくっちゃ。
　小さい声でそうつぶやいて、ジェイドが一歩、前に出る。


◇　◆　◇

　魔王は、英雄が倒すものだから？