もうずっと前。
髪飾りをひとつ、作ってもらった。

身を守る道具のひとつとしてではあったけれど、それでも、父に髪を切られたあの日から、結うことすらしなかった髪に。

やがて繰り返される戦いと道行の末に、その髪飾りがいくらか扱いづらくなったとき。
私はそれを、小さな護符に、してもらった。
私を守りたいと言ってくれたひとの、その手が作ってくれたものから。

けれどそれは私にとって、今やどう扱っていいのかわからない、こころの棘になりつつあった。

痛いほどに、眩しすぎるひと。
裏切られた過去に屈しないひと。
私は折れてしまった場所で、踏み留まったのであろうひと。

何度も傷つけ、涙さえ流させて、私はその善意と好意を裏切り続けている。
守りたいと言ってもらえる価値などないのだと、自分でそう、証明し続けているに等しかった。

私には、手を引いてくれようとする、その先の光が痛い。
それに痛みを感じる自分がつらく、かなしい。

私は黄昏の仔だった。
私の行く先にはいつも夜が待ち受けており、私はいつも、暗い場所へと降りていくことばかりを知っている。

そうして、黄昏よりも強い光の欠片に似たその護符が、ふとした瞬間に私を苛んだ。

明るい場所へと呼ばわる声と、私にその資格はないのだと囁く、私自身の声。
引き裂かれる前に、どうにかしなければ。

何度か、もう手放してしまおうと思ったのは確かだ。

きっともう、忘れている。 ずっと前に作った髪飾りひとつのことなんて。
そう思ってもなお、どうしても、置き捨ててしまうことはできずに。

持っていることはできない。
捨ててしまうこともできない。

私はそれを、もう一人、かつて私の手を引いたひとに、預けることに、した。

何も言わずに預かっていてくれると知っていて、だからこそ何も言わずに。
二人ともを、裏切るようにして。

どこか遠い所を見ているような眼をした後、おもむろに鶏卵を数個下履のポケットから取り出すと、それを使ってジャグリングを始めた。

トン　トン　トン、上空に投げ上げられた卵が鬼子の掌に小気味よくキャッチされていく音だけが聞こえる。

次第に音の間隔が早くなっていく。

ぺちゃ、卵が割れた。残りの卵は鬼子の手元にある。