古代、大陸南部の黄肌人たちの間では龍は神聖なモノとして崇められていたが長き戦争の果てに北部の蒼肌人が勝つと状況は一変。
黄肌人種の文化、信仰は破壊され、その地位は底辺まで落とされた。

戦争から数百年、蒼肌人たち特権階級をはじめとして、社会的地位は肌の色の濃さによって決まる時代となった。
ある黄肌人は奴隷として、ある黄肌人は裏方として、有色の者たちの社会を支える踏み台となっていた。

一部地域では、逃れた黄肌人の子孫が龍信仰を続けてはいたが、龍への畏怖、敬意などといったものはほぼ過去の遺物となっていた。

この頃、大陸南部の貴族階級の間で流行していたものといえば、珍味を食卓にて他の貴族に振る舞うこと。その地に生息する蛇竜や翼竜などは特にグルメとして好評であった。

そんな南部で屠殺人として働いていた少女がいた。
こんな時代で職を選べるはずもなく、無表情に蛇竜の首を切断し絶命させる。せめて苦しまぬようにと手早く、血に塗れ、傷を作りながらも首を斬り続けた。幼少より技を叩き込まれた少女は、生きながらにいて心が死んでいくような感覚を覚えた。

ある日、食材として運ばれてきた翼竜はいつものソレらとはワケが違った。卵から還って間もない子供の翼竜。体躯の大きさからして取れる肉の量は圧倒的に普通の翼竜と違う。どこか悲しげな瞳で少女を見つめる翼竜の仔を、少女はいつもと同じ無表情で物言わぬ状態へと変えた。


数週間後、大陸南部にいた貴族たちは死滅した。
仔竜の親――規模は小さくなっていたが未だに進行され続けたその地の主ともいうべき龍が大陸南部を襲ったのだ。当時、最も軍事力を有していた蒼肌人であったが、この龍を討ち果たすことは敵わず、南部大陸から撤退せざるを得なかった。

龍は貴族の屋敷を襲う中で、一人の少女を見つけた。
己の仔を直接死に至らしめた少女であった。
茫然と空を、否、己を見つめる少女はどこか安堵を覚えたような表情だった。

龍は悟った。このまま殺したところで、少女はただ"解放された"だけでしかない、と。人の愚かさへの警告ならばともかく、自らの仔を殺された報復の主目的は達成されないのだ、と。

龍は少女の前に降り立ち、鋭き眼光で睨み付けたまま、人には理解の出来ぬ言語で呪詛を唱えた。

呪いの内容は死を望んだ少女に対し、不老不死とまではいかずとも高い生命力と長き寿命を与え、人ではなく龍に近い存在へとするものだった。

心を殺し、自らの仔を殺した少女が自殺することを龍は許さなかった。同時に人と添い遂げることを出来なくもしたのだ。
ある意味では、有情とも言える呪いであった。

龍は数日間暴れまわった後、姿を消した。
信仰を続けていた少数の者たちは自分たちの信仰が間違っていなかったと歓喜し、蒼肌人の去った大地に再び集落を作ることにした。いずれ来るであろう蒼肌人に対抗するためにも各地の黄肌人たちを呼び戻す決意を固めて。

一方、龍に呪われた少女はその場にいることを望まず、大陸から去っていった。

かつて祖先が反映した大地に帰ってきた黄肌人たちの間では旅の土産話や噂話に混じって各地を旅する少女の話が話題に上がることもあった。黄肌人のようだが、十年経って似たような少女が目撃された時も十年前とさほど変わってない容姿であったことから、見間違いや勘違いではないか？　といわれることが多かった。長く時代を経てなお、少女の目撃談は続いていたらしい。





そんな、むかしばなしをどこかで聞いた。