恐ろしいほど赤い黄昏の果てに、月のない夜が降りる。
暗く、冷たく、二度と明けないのではないかとさえ思うような、静けさ。

山肌の茂みの影に打ち捨てられた身体の、薄く開いた眼に映る夜の訪れ。

痛みはまだここに蟠り、立ち上がることもできない眼裏に、たった今過ぎたばかりの赤が留まっている。
美しい、けれど恐ろしい色。
それでも今は、沈みゆく夜の色が私の痛みを冷やしていく。
息が、できるようになる。

私の身体を縛り付ける痛みの枷を、わずかずつ、外して。

《不吉》と称されたひとを思いながら、そんなことを思い出していた。

暮れていく夜を導く手。
その先が深く暗いどこかだと薄々感じながらも、その手に従う。 従ってしまう。
黄昏の向こう側で誰かが呼んでいるのが聞こえた。

夜は明けるのだろうか。
いつか。
いつか、明るい場所で息をすることが、私にも、許される日が訪れるだろうか。

だが今は、その夜が私を救ってくれたのだ。

ゆく黄昏を、地平の上に戻すことはできない。
時は過ぎ夜は暮れる。
その果てにしかひかりが見つけられないとしたら、私は夜の手を望む。
夜のうちに我が身が朽ちてしまうとしても、この痛みを抱えたままでは歩けなかった。

明るい場所を望みながら、深い場所へ降りてゆく、その矛盾に引き裂かれても。

おもむろに燈子の手を取ると、小袋から何かを取り出し彼女の掌に載せた。