手加減というのは意外と難しい。正しくは、ほどよく加減することが難しいのである。
　クロムの撃滅により妖精たちは一瞬で灰になり、誰もが――クロム本人ですら――唖然としていた。無論、その後に全員がかりでの吊し上げが行われたが。
　遊び足りないという女王陛下のために妖精を縛り上げながら懐かしい記憶を掘り起こす。
　初めは騎士を拝命した時のことだ。まだ体に慣れておらず、とにかく物をよく壊した。服を脱ごうとして布地を引き裂くのは序の口、フォークを噛み砕いた時はさしもの私も（その後ひしゃげた柄を見た時より）動揺したことを覚えている。
　同じだけの力を込めても今まで以上の力が出てしまう。自分の体、それこそ手指や歯はその力に順応するものに変わっているため自壊することはないが周りは何も変わっていないのだ。
　調子が悪い時、いつもの様に力を入れても物を取り落とすように。真逆のことが起こっていた。
　体に慣れるべく兵士と訓練をした時はもう酷かった。思ったよりも素早く体が動くせいで思うように動けずつんのめるのは序の口。武器を振り回せば握りしめた部分が折れあるいは砕け、飛び道具さながらに猛威を振るった。
　今はもう、周囲の環境に合わせ力を加減することが無意識にできるが。そう出来なければ騎士隊の入隊試験は『無理ゲー』と言われていただろう。
　自分から一本取ると宣言した飼い犬を思い出し、ひっそりと笑った。

　濁る言葉に、曇る顔つき。
　『勉学が苦手です』、とナスルの顔に大きく書かれていた。
　

　レジェの話に小難しそうに眉間をしわ寄せて聞いていたナスルは、
　今しがたの話が半分飛ぶ程度には尻尾に気を取られているようだ。
　

　苦笑しているコノエに、ナスルはそう声をかけながら。
　

　　　　　　男はそっと指輪に口づけた。