天までも覆い咲き乱れる赤い花。
その花びらの輝き。

圧倒的に視界を埋め尽くす赤い光に、こころの奥に根付いた記憶がまなうらに蘇る。

あの黄昏。
長く遙かな、赤と金と藍の移り変わり。
もはや戻れない過去、遠い昨日に否応なく置き去りにされた故郷の色が。

足はしっかりと地を踏んでいるのに、視界が一瞬ぐらりと揺れる。

四肢を巡る血がわずかに熱を強めたような、それでいて、背筋がすっと冷えるような。
理由はわからない。
けれどどうしてか、来てはいけないところに来てしまった、という感覚が、した。

花びらからの光で複雑に落ちた足元の影。
その一番濃い部分から、ウィスプが音もなく浮かび上がる。
場に満ちた赤い光にも紛れてしまうような淡い瞬き。

私のいのちを支える、黄昏を宿した小さな焔。

預けすぎてはいけないと言われている。
私自身、その言葉の意味をよくわかっていた。

私はおそらく今、ほんとうの意味で生きてはいない。
危うい均衡を綱渡りするばかりの無意味な愚行に、私はいのちを擦り削っている。

救ってくれた言葉、助けてもらった背中、伸ばしてもらった手、辿り着きたい岸辺が、浅く朧な夢の中で現れては消えて。

どこへ向かえばいいのだろう。
自分がいちばん望んでいるものがなんなのか、それに触れて私は私でいられるのか。
何かを望んだ先に、欲望と名付けられたその誘惑の先に、歪んだ鏡のように父の姿が見える。
なにもかもを奪っていく腕に、いつの間にか、自分自身の腕に焼かれた罪のしるしが重なってゆく。
そうして気づく。

この赤は、今は遠い故郷の黄昏。
そして、罪のしるしを焼かれたときに見た、息もできない狂おしい痛みに染まった視界の、その色だ。

これだけ話していれば喉が渇くだろうが、彼の声は湿って震えが混じってきている。